海辺のリアのレビュー・感想・評価
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桑畑だよ!
誰のための映画?
【小林政広監督が現況下の世に問いた作品。仲代達矢の、老人性アルツハイマーに罹患しつつも、過去の演者としての栄光に縋る男の姿が印象的な作品である。】
生涯役者
かつての映画スターの悲惨な引退後、老い・認知症、問題ありの家族関係…本当にこんな晩年の映画スター居るんじゃないかと思うくらいの題材はいいが、話の面白さは後一歩。ほとんど台詞劇、単調な展開、静かな引きの映像続き、モチーフとなっている『リア王』を知らないとよく分からない。
本作は、小林政広が仲代達矢の為に脚本を書き、仲代達矢に最高の芝居をさせ、仲代達矢という役者を見る為の作品。
ロングコートを羽織ったパジャマ姿でブツブツ呟きながら歩いている冒頭、惚けた表情はユーモラス。
それが一転、中盤とクライマックスの海辺での一人芝居は圧巻!
あるシーンの、自分の人生をしみじみと振り返り独白する姿には、本当に本人が滲み出てた。
もうとにかく、仲代達矢の見せ場の連続。
キャストは仲代達矢を除くと、たった4人。が、いずれも仲代達矢の舞台をバックアップする為に集まったかのような実力派。
義父と妻の間で板挟み状態の娘婿・阿部寛。電話で話しながら本心を爆発させるシーンは引き込まれる。
娘でありながら父を激しく嫌う原田美枝子。珍しい“悪党”だが、その天晴れな憎々しさ。
その娘と何やら関係がありそうな運転手・小林薫。出番は少なく、台詞も一言だけだが、印象残る。
そして、黒木華。
仲代演じる桑畑兆吉とは孫ほど歳の離れた娘。愛人に産ませた子。
父に対して複雑な感情を抱いているが、父の事を大事にも思っている。
彼女自身、訳ありの過去もある。
仲代達矢という名優を相手に、一歩も引かない所か堂々と渡り合う。
本当に演技力もあり、魅力的な女優だ。
桑畑兆吉は役者なのだ。
認知症が進んで、相手が誰かも分からない、何処に行きたいか分からなくても、“役者・桑畑兆吉”であった事は覚えている。
家族を顧みなかったり、スキャンダラスな人生でもあったが、それらを背負ってでも、役者。
80を過ぎて台詞覚えが悪くなったという仲代達矢。
本作は、彼の最後の舞台などではない。
まだまだ精進。まだまだ貪欲。まだまだ演じ続ける。
生涯役者。
本作の仲代達矢に、そんな気迫を見た。
映画でした。
印象深い
我々は、夢と同じもので織り成されている
海辺のリア
これは三部作の最終章だと感じました。
最初に シェイクスピア の「リア王」があり、
次に黒沢映画の「乱」があり、
最終章がこの「海辺のリア」
そこまでして見る必要があるかどうか…
劇中の台詞に使われている「リア王 (新潮文庫) 文庫 /翻訳: 福田 恆存」をさっと読むか「映画」(コスミック出版のシェイクスピア DVDがお奨め・10話で2000円前後)を観て、「乱」を観てから、この映画を観ると、理解が深まり感動するでしょう。
私は、残念ながら「乱」→「海辺のリア」を観て、改めて「新潮文庫」→「コスミックDVD映画」の順でみました。
私は、過去に認知症の方とも接点があり、この映画を観て過去の様々な体験が鮮明に蘇りました。
評価が難しいけど素晴らしい映画です。
映画のレビューは初体験、どうしても書きたくての投稿です。
映像がなくても成立している演劇的作品、もはやラジオドラマ(笑)
あまり言いたくはないが、これは"映画ではない"。自己解釈をした"演劇作品"であり、それを収録した映像(ビデオ)作品といえばいいか。
ヒッチコック監督は、"セリフに頼らず、映像だけで表現するのが、映画ならでは表現方法"と、事あるごとに発言していた。"音"を消しても"映像"だけでストーリーがわかるのが、ヒッチコック的な映画術だとするなら、この「海辺のリア」は"映像"を消しても、"音"だけでストーリーがわかる。セリフが各人の置かれた状況を語り、もはやラジオドラマに近い(笑)。目を閉じても大丈夫なので、そのまま寝てしまったり・・・。
こういう作品を観ると、小林監督は"言葉"で生きている人であり、"映画"はメッセージのための道具であって、"映画"を愛してはいない人だなぁと。
ストーリーは、シェイクスピアの「リア王」の陳腐な翻案である。リア王を、"かつて俳優として大スターだった老人・兆吉"に置き換え、冷たい仕打ちをしたにも関わらず、リア王を助けようとした末娘のコーディリアを、"愛人の子供・伸子"に重ねる。兆吉は認知症であり、長女とその夫に裏切られ、高級老人ホームに入所させられている。私生児を産んだことで勘当され、疎遠になっていた伸子と、老人ホームを脱走した兆吉が海辺で出会う。
壮大なシェイクスピア悲劇を、なんでこんな下世話な社会問題の喩えに使うのだろう。しかも人物設定の置き換えにしかすぎず、コーディリアが死んでしまうような真の"悲劇"になってもいない。
主演の仲代達矢をはじめ、黒木華、原田美枝子、阿部寛と、ぜいたくなキャスティングは何のためだろう。こういう無駄遣いはやめてほしいものだ。"演劇"であることが意図されているため、カメラのフレーミングはほとんど固定で、舞台を客席から見るような額縁になっている。"映画ではない"ので、評価もできない。
(2017/6/16 /テアトル新宿 /シネスコ)
映画ではなく舞台なんだな
いいですよ、映画館でこの舞台的映画を体感してほしい
おもしろい。
最初のシーンで仲代さん演じる海辺のリア王が孤高で傲慢、しかしもう既に虚栄や見栄などに形振り構ってられない様子を表す、老人の力強い焦燥感をにじみ出した演技を見事にしていると感じた。
また日本海の荒れた波を背景として立ち、映画のどでかいスクリーンの端から端まで動き回る仲代さんの一人舞台のシーンにはおもしろいな~と感嘆した。
演者たちは少ないが、最初に他四人全員出てくる。しかし関係性はなかなか明かしてくれない。じれったくはなるが少し辛抱が必要。
というのも黒木華との会話がはじまりから少し経ってから始まるのだが、関係性がわからないばかりに疑問符が頭に次々と出てきてしまう。阿部寛たちとも同様。このことが一見この映画をつまらなく思わせるのだと思うけどやはり辛抱してほしい。
僕は若く、そのせいでそのように感じたのかもしれない。映画が終わり観客見たら平均年齢60近かったから、あの人たちはそう感じなかったかも。
あと、できればリア王を既に読んだ状態から観るか、観てからすぐに、感動がさめないうちにリア王を読んでほしい。リア王を通じてこそやはり真の値打ちがこの映画にあると思うから。そうしたらこの映画の中で変転する黒木華の姿にどうしようもなく憐れに思え、涙する映画になり、心深く残る映画になると思う。
また、この映画はリア王を、言ってしまえば途中から描いている。だからこそ、こうも言える。主演は仲代さんなのだが、本当の主人公として描き出しているのはコーディリアである黒木華となっている。そしてこのコーディリアは実に上手く演出されている。なんで黒木華なんだろうと映画中考えたが、憐れで悲しくも優しい温かいあの強さを思えば、そうか、黒木華になるなと思える。
印象に幸せもつけたがリア王にとって、コーディリアの存在だけがこの上ない幸せだろうという意味をとってつけた。
70代のお年寄りが頑張っているといえば、たしかに。
虚実の皮膜を楽しむ
演技派俳優、仲代達矢84歳の演じる芝居。
登場人物はわずか5人。
舞台は、石川県の千里浜という海辺。
主人公の桑畑兆吉は、元俳優だが老人ホームを抜け出して、、
「用心棒」では、ミフネさんと共演しました、と語る主人公は、84歳の仲代達矢そのもの。
認知症を患い、突然怒りだすわ、呆けるわ、の始末。
しかし、ラスト近く、海辺での「リア王」の一人芝居は、実に堂々たるもの。
仲代達矢も老いに直面しているのだが、それを演じているのが、素なのか、わからないのが魅力でもある。
シェークスピアのリア王が、こういう形で、現代に蘇るとは!
私のような還暦超えには、極めて親近感の湧く作品だが、今時の若い人には理解しがたいかもしれない。
俳優さんの希望。
気になってた映画だったけど、予想より数字の値が低く、観ようかどうか二の脚踏みました。が、数字に惑わされたら損する、とあらためて思い知らされた作品です。とにかく、仲代達矢さんに魅入りました。大御所の有名な俳優さんとの認識だけだったんだけど、こんなにも魅力的だったとは。これからの作品をもっと観たい! と思わせる映画でした。既に、リピしたい気分。ホントにステキ! 過去の映画より、これからの映画を観たくなる映画でした。そしてそして、宣伝下手すぎる! この映画を埋もれさせないでほしいです。観ることを選んで、ホントによかった。と思えた映画です。もひとつ、映画館で観てよかった、映画館じゃなきゃもったいないとおもえた作品でした。
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