劇場公開日 2017年6月3日

「生涯役者」海辺のリア 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5生涯役者

2018年1月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

知的

かつての映画スターの悲惨な引退後、老い・認知症、問題ありの家族関係…本当にこんな晩年の映画スター居るんじゃないかと思うくらいの題材はいいが、話の面白さは後一歩。ほとんど台詞劇、単調な展開、静かな引きの映像続き、モチーフとなっている『リア王』を知らないとよく分からない。
本作は、小林政広が仲代達矢の為に脚本を書き、仲代達矢に最高の芝居をさせ、仲代達矢という役者を見る為の作品。

ロングコートを羽織ったパジャマ姿でブツブツ呟きながら歩いている冒頭、惚けた表情はユーモラス。
それが一転、中盤とクライマックスの海辺での一人芝居は圧巻!
あるシーンの、自分の人生をしみじみと振り返り独白する姿には、本当に本人が滲み出てた。
もうとにかく、仲代達矢の見せ場の連続。

キャストは仲代達矢を除くと、たった4人。が、いずれも仲代達矢の舞台をバックアップする為に集まったかのような実力派。
義父と妻の間で板挟み状態の娘婿・阿部寛。電話で話しながら本心を爆発させるシーンは引き込まれる。
娘でありながら父を激しく嫌う原田美枝子。珍しい“悪党”だが、その天晴れな憎々しさ。
その娘と何やら関係がありそうな運転手・小林薫。出番は少なく、台詞も一言だけだが、印象残る。

そして、黒木華。
仲代演じる桑畑兆吉とは孫ほど歳の離れた娘。愛人に産ませた子。
父に対して複雑な感情を抱いているが、父の事を大事にも思っている。
彼女自身、訳ありの過去もある。
仲代達矢という名優を相手に、一歩も引かない所か堂々と渡り合う。
本当に演技力もあり、魅力的な女優だ。

桑畑兆吉は役者なのだ。
認知症が進んで、相手が誰かも分からない、何処に行きたいか分からなくても、“役者・桑畑兆吉”であった事は覚えている。
家族を顧みなかったり、スキャンダラスな人生でもあったが、それらを背負ってでも、役者。
80を過ぎて台詞覚えが悪くなったという仲代達矢。
本作は、彼の最後の舞台などではない。
まだまだ精進。まだまだ貪欲。まだまだ演じ続ける。
生涯役者。
本作の仲代達矢に、そんな気迫を見た。

近大