「近年稀に見る純映画」羊と鋼の森 shatihokoさんの映画レビュー(感想・評価)
近年稀に見る純映画
ネタバレチェック入れるほどでもないが、軽いあらすじ程度のネタバレあり。注意!
本作の見どころは2つある。
一つは、純粋に、時間軸に則って進むストーリー構成。
二つ目は、目に見えぬ音楽と心理描写を描き出す卓越した技術。
一つ目から。最近の映画はやけにチャカチャカした映像が多い。
ストーリーを切っては繋げ、切っては繋げ、製作者の主張だけを不自然に強調し、それ以外は不要と言って切り捨てる。それを私はチャカチャカした映画と表現した。
しかし、本作は、時間順に前から不自然なカットをすることなく、主人公の主観的視点を最初から最後まで追って行く。近年稀に見る純文学のような映画だ。
小説は読んだことはないが、不自然なテクニックに頼らず純粋に新米調理師の成長を描き出している。
映画の内容自体も素晴らしい出来だ。ここが二つ目の見どころ。どの世界でも新米なら当たり前にぶつかる壁を乗り越えるベタなストーリーだが、先にも述べたように最近チャカチャカした映画が実写にもアニメにも多いので、改めて感激、感心した。
また、先程作者のテクニックについても少し触れたが、本作の作者は、登場人物の心理描写や音楽といった目に見えないものを表現するのに長けているようだ。それでいて、腕を見せびらかすような、作者による一方的な主張がなされないのがとてもいい。二度褒めるに値する。
ぜひ一度観てみて欲しい。特に、音楽を一度でも経験したことのある人ならなおさらだ。中盤、主人公がミスする場面は、私自身が音楽経験者だけに、観ていてとてもヒヤヒヤする。それだけに乗り越えた時の感動はひとしおだ。
もちろん、今まで音楽に関わりがなかった人でも十二分に楽しめると思う。それは新米調律師が主人公と言っても、ストーリーそのものは音楽ではなく成長物語だからだ。
他者のレビューが思ったほどでもなく、とても不思議に思う。個人的には全体評価で星4点越えは固いと思うのだが...。機会があれば何度でも見返したいと思える作品である。