ザ・ダンサー : 映画評論・批評
2017年5月30日更新
2017年6月3日より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー
フレッシュな才能によるダイナミックな魅力に満ちた、スタイリッシュなダンス映画
ダイナミックな魅力に満ちた作品だ。ダンスをテーマにしたフランス映画と聞くと、クラシックな重厚さを想像するかもしれないが、本作のヒロインはモダン・ダンスの祖。描かれるのは、羽のようなボリュームのあるコスチュームで華麗な舞いを生み出したベル・エポックの伝説の女性ダンサー、ロイ・フラーの半生である。時代の変わり目に花開いたアヴァンギャルドなダンサーの伝記を、ミュージック・ビデオ界で活躍していたステファニー・ディ・ジューストが初めてメガホンを握り、エネルギッシュかつスタイリッシュに映画化した。初監督作でいきなり2016年カンヌ映画祭のある視点部門に入選したというのも、その実力を証明している。
貧しい生まれのロイは独学で自分なりのダンスを開発し、アメリカからチャンスを求めてパリに渡る。19世紀末から20世紀にかけて、新しいものに貪欲だったパリの社交界は、照明を生かした彼女のアーティスティックで美しいダンスに心を奪われる。だが、一世を風靡した頃に出会ったのが、素の魅力で勝負する天才的ダンサー、イサドラ・ダンカン。まだ無名だった彼女にロイは目をかけるものの、ロイを利用する形でダンカンは、その妖艶な魅力でのし上がっていく。
舞台シーンの幻想的な美しさと平行して語られるのが、愛と裏切りの物語、そしてアーティストの苦悩だ。ロイのダンスには、コスチュームや照明といった小道具が不可欠。さらに両腕を使ってボリュームのある衣装をつねに蝶のようにはためかせるため、体への負担は並々ならぬものがある。一方、シースルーのドレスをまとって素足で軽やかに踊るダンカンは、身ひとつで観客を魅了していく。こうした不均衡がアーティスト生命を左右する、芸術家としての苛酷な運命というべきものが、本作では深くえぐられていて感慨深い。
それぞれ適役と言えるキャストの顔ぶれも魅力的である。ロイ役はフランスで歌手として人気を誇るソーコ。そのパワフルで荒削りな魅力は、運命に抗い独力でキャリアを築いていった激情型のロイに相応しい。一方、小悪魔的な魅力を駆使するリリー=ローズ・デップもダンカンはまさにハマり役。さらにロイを支える高貴な伯爵役で、これまでとひと味異なるデカダンな魅力を差し出すギャスパー・ウリエルも出色だ。
フレッシュな才能が集結しオリジナルな魅力を奏でる、新鮮なフランス映画の息吹を感じさせる。
(佐藤久理子)