「乗り越えられないこともある。」マンチェスター・バイ・ザ・シー だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
乗り越えられないこともある。
楽しみにしていました、マンチェスターバイザシー。
予想よりも淡々とした感じでしたが、とっても良かったです。
回想でのリーはすっごく楽しそうで、よく笑う人だったし、とっても幸せそうでした。なのに、現在のリーは愛想のかけらもなく、人を避けるか喧嘩するかの日々を過ごしています。
なんでそうなっちゃったのかな、というお話です。
リーの過ち、それはもう、ひどい過失なわけです。
故意では絶対ない。でも取り返しがつかない過失。
夜中に暖炉の火を放置して外出してしまい、家が全焼。
こども3人が死んでしまったのです。
これはね、本当に、私がリーだったらと思うとね。
はたして生きていられただろうかと。自分を絶対に許せないでしょうし…
元妻のミシェルウイリアムズと道端でばったり会って、少し話をするシーンが、とても切なくて悲しくて、涙があふれました。
元妻の、元夫を責めに責めたことへの後悔。
その懺悔はそれでもリーを救わない。
それも仕方がない、元妻べつに悪くない。
リーだって、人生をかけて悔やんでいる。
でも、大切な子供たちが死んでしまったことは、二人にとっては、なにがあっても消化できるものではない。
そのことが、二人の苦しそうなしぐさ・表情から伝わってきて、
ともに苦しくなりました。
一方で、リーは仲良しだった兄を病気で亡くします。
兄には一人息子がおり、10代らしいセンシティブさがありつつ、なかなかにリア充な高校生です。
彼女は二人いて、アイスホッケーにバンドに、お父さんの船を維持するためのバイトに大忙し。
もちろん父が死んで、辛い。でも、あんまり辛そうにはしていない。
私には、辛さが表面にまだ出てこないのかなという感じに思いました。
そして、母親がなかなか曲者で、母に改めて捨てられた気持ちになり、傷つきます。またリーが故郷に留まってくれそうにないことにも傷ついています。
リーと甥のやり取りは危なっかしいけれど、微笑ましくもあります。
哀しい話なんだけど、ぽろっとおかしいことはおきます。
彼女の母の干渉が頻繁過ぎてセックスが続けられないとか、
彼女の母とリーの会話が、びっくりするほど続かないとか。
私も泣きながら、ふはって笑ってしまう感じが何度かありました。
どうにもならない悲しみの中にも、吹き出す出来事もあるよね、
そんなもんだよね、って思いました。
リーは、甥との暮らしを前向きに考え始めたようですが、
ぼーっとしていて台所でボヤ的事故を起こします。
今回は大した事故ではなかったのですが、過去がよぎりこれではいかんと決意します。
甥は近所の友人の養子になってもらう、自分はやっぱり故郷では暮らせない、ということです。
甥には申し訳ないけれども、乗り越えられない。
その結論が、哀しいけれども正直な気持ち。
わかるなと思いました。
一緒に暮らせないとはいえ、パトリックを切り捨てるわけでもない様子でした。新しい住まいにはパトリックの部屋も準備しておくとのこと。
つかず離れず、ちょうどいい距離を二人で探して、ほんのり仲良く過ごしてほしいなと思いました。
曇った色彩の町が、固く閉ざされたリーとシンクロしているように見えました。いい映画でした。