「つまんないけど面白かった」未来よ こんにちは kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
つまんないけど面白かった
孤独をテーマにしているような宣伝文句ですが、テーマは喪失とその回復だと感じました。その回復プロセスが淡々と日常生活を続けて行くといった、真をついたものであったので、なかなかビックリしました。
いろんな切り口のある映画ですが、個人的に注目したのは猫のパンドラとの関係。
ナタリーは猫アレルギーと言っておりながらすぐに猫との愛着関係を形成し、猫なしの人生はありえなくなる。夫と母を喪失した直後のナタリーは明らかに猫を心の支えにしていた。
そんなナタリーが1年後に猫を手放す。しかも晴れ晴れした表情で。ここがこの映画で一番凄いと感じたポイントです。しかもファビアンの部屋を気に入ったと思われるパンドラの意志を尊重して、である。
1年経ってそこまで必要としていなかった側面もあるだろうが、愛着あるペットを、ペットの気持ちを尊重するが故に手放せたのは、ひとえにナタリーが専門にしている哲学が影響していると思われる。ここで描かれる哲学とは小難しいものではなく、人権を尊重する思想のことだ。
それができた理由は、フランスだからなのか、ナタリーだからなのかはわからない。しかし、身近な存在に対して猫であろうが尊重する姿勢こそが、この作品に通底している軸だろう。ナタリーがキツい喪失体験後も淡々と生活を送る事ができたのも、他ならぬ自分を尊重してたからではなかろうか。
一方で、ナタリーは過剰なまでに理性で情動を抑えている人のように見えて、息苦しさを覚えたのも事実。頭でっかちで、無理して突っ張って生きているように思えた。つまり、どっかウソついて生きている。『未来』という原題も、なんだかね。ナタリーは過去を振り返らないから、大地に根ざさずにスタスタと未来に上滑っているだけに思えてしまう。無意識では過去を振り返ってウジウジしたいんじゃないの?
ナタリーみたいに生きると、情動と情動のぶつかり合いのガチンコ勝負ができないんじゃないかな、なんて感じました。浮気した旦那も、ナタリーに対して人間としての手応えの無さを感じていたのでは、とか勘繰ったりして。
ナタリーを通じて描かれているであろう哲学について。人権尊重の姿勢は確かに素晴らしい。一方で、理性の優位を高らかに謳うバランスの悪さも浮き彫りにされているな、と感じました。
ファビアンのコミューン主義も鼻についたし、登場人物たちにはまったくと言って良いほど共鳴できません。なので、映画を観ていた時は正直クソつまんねぇと思ってました。
しかし、実際の所は些細な場面からあれこれ考察することができる大変豊かで魅力ある映画だったと言えます。何度も反芻して楽しめるため、リアルタイムで観ていた時よりも観た後の方が面白かった。
観た時はつまんなくても、結果的に面白いと言える映画もあるんだな、映画は奥の深い文化だな、としみじみ思った次第であります。