劇場公開日 2017年3月25日

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未来よ こんにちは : 映画評論・批評

2017年3月14日更新

2017年3月25日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー

名女優が“歩き回る”姿に魅せられる、愛おしく胸に染み入る人生模様

イザベル・ユペールは言わずと知れた現代のフランスを代表するスター女優だが、60代半ばの今もハイペースで出演作を積み重ねている。よほど冒険心や好奇心が旺盛なのか、そのフィルモグラフィーは奔放にも思えるし、時には他の女優が怖じ気づいて逃げ出しそうな過激なキャラクターも平然とやってのける。

ところが本作のユペールは奔放でも過激でもない。これといった大事件さえも起こらない映画だが、なぜか全編出ずっぱりの彼女から目が離せないヒューマン・ドラマである。高校の哲学教師である主人公ナタリーは、ふたりの子供を社会に送り出し、公私共に人生の充実期のまっただ中にある中年女性。そんな彼女が長年連れ添った夫からの突然の別れ話、年老いた母親の病状悪化などによって、あれよあれよという間にひとりぼっちになってしまうという物語だ。

こう書くといかにも暗く、気の滅入りそうな映画を連想するかもしれないが、むしろ語り口は軽やか。パリの街並みには夏の日差しが降り注ぎ、爽やかな風が緑を揺らす。それに何よりナタリーがとにかくよく動く。授業で学生を公園に連れ出したり、母親からのSOSに呼び出されたり、はたまた携帯の電波を求めてぬかるんだ砂浜に足を取られたり。これはもうイザベル・ユペールが、ひたすら歩き回る映画と言ってもいい。

せわしなく歩き回るという運動は“じっとしていられない”焦りのようであり、“立ち止まりたくない”意志の表明のようでもある。登場人物に都会と田舎を行き来させ、お気に入りの水辺の風景を挿入し、季節の移ろいを取り込むことを好むミア・ハンセン=ラヴ監督は、ナタリーがさらけ出す弱さも強さも、悲しさも滑稽さも愛おしくすくい取り、その一瞬一瞬を緩やかな時の流れの中に刻み込んでいく。いつしか小休止して大自然の絶景に立ちすくむヒロインのちっぽけな姿に孤独を読み取るか、それとも歩き回る日々からの解放を感じ取るかは観客次第。いずれにせよミア監督とユペールの幸福なコラボレーションが結実した本作は、数ある“それでも人生は続く映画”の中でもまれに見るほどナチュラルで、多面的かつ豊かで、胸に染み入る良作となった。

ぜひとも最後に書き添えたいのは、主人公が猫アレルギーという絶妙の設定だ。隠れ邦題として「猫とイザベル・ユペール」と名付けたいほど、思わず頬が緩む名女優と気ままな黒猫の共演シーンをお見逃しなく。

高橋諭治

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