パターソンのレビュー・感想・評価
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日常を楽しむ
パターソンのパターソン
パターソンのパターソン ニュージャージーのバスの運転手
パターソンのパターソン 妻は気儘なクリエイター
パターソンのパターソン 正直者でお人よし
パターソンのパターソン 実は繊細な詩人
パターソンの日常はいくつか時代をさかのぼったようにアナログだ。自分の目で見て耳で聞いて本で読んだことだけがこの世界のすべてなのだ。詩人にはデジタルの情報は無用の長物だ。ただし他人がそれを利用することを否定はしない。
時の流れが止まったかのような平凡な日常を繰り返すパターソンだが、彼自身にとっては決して平凡ではない。毎日いろいろな出逢いがあり発見がある。生きていることが詩作そのものだ。
パターソンのような精神性の人間が存在していることを伝えるのは、不寛容が蔓延した現代では非常に意義のあることだ。商業主義のB級映画が主体のアメリカ映画界だが、こういう作品を作れるところにまだまだ奥深さというか、文化としての体力を感じる。
エミリ・ディキンスンを高評価するところも、アメリカ文学をよく理解していて好感が持てる。双子のメタファーも意味ありげで面白い。
二刀流のススメ
この映画、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズが町医者兼詩人であり、ジム・ジャームッシュもまた映画監督でありながらミュージシャンとして活躍中という事実を知っていると、より深い理解が得られる1本に仕上がっています。
前作『オンリー・ラヴァーズ…』と同様、アダム・ドライバー演じるバスの運転手兼詩人パターソンに自らの生き方を投影させた、非常にpersonal(≒paterson??)な作品のように私には思えるのです。すくなくとも仏陀の教え(無常=苦しみ)と真逆のことを啓蒙しようとしているような映画などではけっしてないでしょう。
それは、平穏な日常生活自体が(詩人にとっては)どちらかというと“苦行”(円のモチーフ→輪廻→業)として描かれていているからです。どう贔屓めに見ても、アラブ系の奥さん(ゴルシフテ・ファラハニ)は突飛な思いつきだけで行動する困ったちゃんだし、マーヴィンに至っては大切な詩を書きためておいたノートをビリビリにしてしまうダメダメ犬です。
内心では「スーパーでレジ打ちのパートでもして家計を助けてくれよ」とか「ビールを飲んでいる間に誰かワンジャック?してくんないかなぁ」なんて思ってはいるけれど、心優しきパターソン決して口には出しません。
本業であるバスの運転中にも思わぬトラブルが発生し、心身ともに疲れはててしまうパターソン。あの滝のある公園では「面倒なバスの運転手(映画監督)なんかもう止めちゃおうか」と、思い悩んでいたのかもしれません。そこへ日本の詩人役で永瀬正敏が登場するのです。
WCWをこよなく愛するこの男とパターソンの会話がなければ、劇中やたらと出現する2in1の双子たちや、2足の草鞋ならぬワークブーツのアップ、アボット&コステロの凸凹コンビ、白と黒に塗りわけられた内装などのメタファーが何を意味していたのか、気づかないまま映画を見終わっていたことでしょう。(趣味性の強い『ギミー・デンジャー』とのセット公開に踏み切った意図も同じなのかもしれません)
趣味を仕事にしてしまうと途端人生がつまらなくなるという話を聞いたことがありますが、WCWも本業で日常を素直に見つめる目を養ったからこそあんなに素敵な詩が書けたはず。詩人(アーティスト)とはなるものではなく生き方そのものであり、金儲けの道具にしようとスケベ根性を出したりすると日常生活がかくも息苦しく感じられることに、パターソンいなJJは気づいたのではないでしょうか。
大谷翔平をラストに登場させた方がむしろわかりやすかったのではと思えるこの映画、ファンにとってはJJが今後映画監督を続けるかどうかが最も気がかりところ。2刀流の可能性(真っ白なノート)について指南を受けたパターソンが、翌週の月曜日元気に出勤していった様子を見る限り、この人まだまだ映画を撮り続けるようですよ、きっと。
ちょっとだけオカシイ毎日があれば
人が生きて行く為に繰り返される生活。当たり前の日常の中に生きる術と、ほんの少しの喜びを見い出すことは、とても尊いことだと気付かされます。自分と異なる他人だからこそ見えてくる、共有できる価値感と少しのズレのおかしさが滑稽で愛おしく思えるのはパターソンが日常の中で起きることを、自分なりに、なんとか面白がって受け入れて生活しているからなのでしょう。この生活を彼が嫌々ながら続けるならば本作は成立しない。こんな事もあるから人生は楽しみなのかもしれないと、心が暖かくなります。
とりわけ美しい映像表現を散りばめたような、よくある大作映画とは一線を画したジャームッシュならではの映像表現は、かえって新鮮にも思えます。
少し眠気が起きるほどのテンポですが、これは何度でも見たい映画です。
毎日の仕事と美人の嫁さんと一杯のビール
不安
犬には分からん、笑
その日々
じわじわくる
不思議な気持ちになる作品です。
痛みを感じる、哀しい影
言いたいことがあるのかないのかそれすら解らない
日常にもいろんな日常が
奇妙な後味
バスの運転手をしながら日々詩を書いている男と、その彼女の1週間を淡々と描く。
体を寄せ合いながら眠っていて、決まった時間に目が覚めたら彼女の体臭を嗅ぎ安心して起き、昼ご飯を携えて会社に行き、バス会社の同僚と会話をし、乗客のおしゃべりなど聞き、帰ってきてから彼女と夕飯を食べ、犬の散歩に行きつつバーに寄りビールを一杯飲む。
その毎日の繰り返し
彼女との関係は、安心感を感じさせるセリフや詩が出てくるが、画面から感じる印象は、薄いワイングラスの中のような変な緊張感を感じる。
彼女との関係もそうだ。
彼女の好きな黒と白のデザインや、やはり黒と白のデザインが現れるケーキや、思いつきのようなカントリーのギターや、気分的な料理など、主人公はどれもいまいち気に入ってないのではないか?と伝わってくる。
彼の詩を世に出すべきだという彼女の考えにも、実は全く賛成していない。
彼の大事な詩のノートが犬に噛み千切られてしまうが、そのシーンから受ける印象も、彼は彼女のせいだと思っているのではないか?と感じた。
でも、彼女とやっていこうとしている彼がいて、
余計なお世話だが、本当にそれでいいのか?と、つい思ってしまった。
どのシーンも微妙な心の揺れのようなものを感じたが、それは主人公の繊細な表情や仕草からで、
この俳優スターウォーズを観た時にはわからなかったが、とてもいい。
また偏見だが、セックスのシーンがないのがよかった。
また、双子がそこかしこに出てくるがあれはどういうことなのだろう?なにかのモチーフ?
彼女は昔のホラー映画のヒロインと双子、主人公の男は街かバスそのものと双子、なのかな?と考えてみたものの、どうもピンとこない。
最後の永瀬のシーンは独特で、あれがあってよかったのかどうか、よくわからない。
それまでの雰囲気や曲調とはガラリと変わって、むしろわざとゴツゴツした会話と雰囲気を無理やり投入したように見え、メッセージを伝えようとしているというよりも、敢えて異質なものを放り込んでその雰囲気のまま終わらせた印象。
あとベンチで後から座る永瀬だが、主人公との位置が近いよ、と思うのは私だけか。
いずれにしても、ただ心地のいいだけではない、奇妙な後味を残す映画だった。1週間経っても、まだああだこうだ考えているのだから。
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