20センチュリー・ウーマン : 映画評論・批評
2017年5月23日更新
2017年6月3日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにてロードショー
世代の違う三人の個人史として描かれる女性史。演じる女優が素晴らしい!
長編映画監督としてはデビュー作に当たる「サムサッカー」から、家族はマイク・ミルズにとって大きなテーマだった。面白いのは、彼が自分の父との関係を描いた「人生はビギナーズ」、そして母と自分の周辺の物語である今作と、その主題をよりパーソナルなものとして扱うことによって、普遍的でより開かれた作風へと変化していった点だ。この映画でマイク・ミルズは映画監督として、確固たる地位を築いたと言っていい。
舞台は1979年の南カリフォルニア。十五歳の息子ジェイミーを育てるシングルマザーのドロシアは、彼の身を案じて、下宿人のアビーとジェイミーの幼なじみのジュリーにジェイミーの教育係になって欲しいと申し出る。ジェイミーの成長と70年代と80年代の狭間の時代を軸にして、世代の違う三人の個人史としての女性史が描かれていくという構成が面白い。
「大恐慌時代の女」であるドロシアはワーキング・ウーマンとして生きて、夫と離れ息子と二人で生きていくことを選ぶ。ベビー・ブーマーのアビーはパンクやニュー・ウェイブ、女性解放運動の洗礼を受け、ジェイミーにポップ・カルチャーとフェミニズムの知識を授ける。ジェイミーより少し年上のジュリーは80年代に二十代を迎える世代で、自由を求めているが、立脚点が自分の肉体にしかなく精神的に危うい。
三人の女性を演じる女優がみんな素晴らしい。年齢を重ねていくことの素晴らしさと哀愁を滲ませたドロシアを演じるアネット・ベニング。主人公の水先案内人であるのと同時に彼を混乱させる存在でもあるアビーを、この上なく魅力的に演じるグレタ・ガーウィグ。十代の少女のリアリティとジェイミーの目から見たファンタジーとして女の子が入り混じった、エル・ファニングの不思議な存在感。マイク・ミルズは、それぞれの女優からベストとも言えるパフォーマンスを引き出した。
三人の女性と一人の少年と共に、この映画の主役になっているのはニュー・ウェイブ/パンクの音楽だ。マイク・ミルズの青春の原点としてかかるトーキング・ヘッズは、いつになくキラキラと輝いて聞こえる。
(山崎まどか)
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