劇場公開日 2018年2月1日

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「「希望」の空虚な響き」不能犯 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「希望」の空虚な響き

2018年2月12日
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鑑賞方法:映画館

 松坂桃李は映画「ツナグ」やテレビドラマ「視覚探偵日暮旅人」など、特別な能力を持つ主人公を演じている印象がある。この作品でも人の心を操って死に至らせる超能力者が主人公だ。
 人を呪わば穴二つという諺は誰でも知っている。しかし詳しい意味を知る人は少ないだろう。対義語的な諺に、情けは人の為ならずというのがある。こちらは人口に膾炙していて、他人に親切にすると、巡り巡って自分に戻ってくるという意味だ。人を呪わば穴二つの意味はちょうどこの反対で、人を呪い殺そうとすると巡り巡って自分も呪い殺されるという意味だ。
 好感を持っていると相手にそれが伝わって、相手からも好感を持たれることがある。これは経験則で多くの人が知るところだろう。同様に、人を憎悪していると相手からも憎悪される。
 それがわかっていながら、人は人を殺したいほど憎む。人間はどこまでも愚かなのだ。
 そういった人間の本質的な愚かさを指摘する主張に対し、アンチテーゼとして「希望」を設定するのは議論としても平行線だし、主張としても如何にも弱い。
 愚かさに対抗しうるのは、理性もしくは知恵なのではないか。であれば強力な主人公にも対等に渡り合えたかもしれない。
 世界観としてはなんともバランスの悪い作品であったが、人々の愚かさが炙り出される場面は痛快で、それなりに見ごたえはあった。

耶馬英彦