「二度目観ようとは思えない」ゴースト・イン・ザ・シェル からすさんの映画レビュー(感想・評価)
二度目観ようとは思えない
自分はこれまでGHOST IN THE SHELL、攻殻機動隊のTVシリーズおよびSSSを観てきました。特にテレビシリーズは5周ほどしたと思います。本作は劇場で観たかったのですが、時間と都合が合わずにDVD化を待つこととなりました。見終えた今となっては、シネマイレージの絵柄を本作のバージョンにしていたことを少し後悔しています。
攻殻機動隊は自分の中では傑作と言える作品群です。その先見性、独自の世界観、内容の厚みは何年経っても心を離しません。
小学校の時分はTVシリーズがアニマックスなどで放映されていても見向きもしませんでした。むしろ嫌っていたように思います。その頃の気持ちも忘れていないからこそ思うのですが、攻殻機動隊というのは決して大人から子供まで万人受けする作品ではありません。だからこそ、この作品を同じ作品体系として世に送り出し続けるとき、それに求められることは「多くの人に観られる」ことよりも「多くの回数観られる」ことのように思いました。万人が面白いと思って観ることよりも、そこまで多くない人口であれ、作品に惹かれ、何度も見直す人が居ることの方がこの作品の価値を高める上でも良いことのように思えるからです。
ハリウッドで実写映画化されることを知ったとき、正直、上のような理由からハリウッド映画には決して向かないなと思いました。
実際この考えは的中し、自分の期待した作品としては失望する出来になってしました。
もちろん、これが攻殻機動隊ではない単なるハリウッド映画であれば十分楽しめたと思います。しかし、その場合でも、伏線が少なく、展開にひねりがなくてあっけない、凡庸なハリウッド映画と言えたでしょう。
本作はハリウッド映画です。故に万人受けし、多くの人に観られることで採算がとれる形になりやすい。結果として攻殻機動隊のもつアイデンティティ、イデオロギーは薄められ、同じ名を冠したパロディ作品に近いものになってしまった。用語や、登場人物の名前は原作と同じでも、人物の中身が薄っぺらく感じられてしまうのです。良く言えば分かりやすい。しかし、攻殻機動隊の素晴らしさとして、脇役一つとっても一人一人にしっかりとしたイデオロギーがある。行動理念があり、それらに裏打ちされた性格が行動に表れています。車内でのバトーと少佐の会話一つでも、二人の人物像は薄っぺらく、凡庸でいて、関係に深みを感じられませんでした。
それぞれのシーンは作品群のあちこちからもってきた継ぎ接ぎです。これを原作への愛ととるのかどうとるのかは人によって違うと思いますが、私は原作への敬意、愛を感じられなかった。なぜ、オープニングでタイトル名が2回もテロップされるのに、原作は士郎正宗であることがテロップされなかったのか。なぜ、中途半端に荒巻の役だけ(桃井かおりなども出てくるが、公安9課に関しては)日本人であるビートたけしを使ったのか。しかも彼だけ劇中使うのは日本語。もちろん電脳化で彼の話す日本語を翻訳しながら彼らが会話しているというのは想像に難くない。しかし私には単なる言い訳にしか感じられなかった。原作の作品群から多くを真似、中身は薄めるだけ薄めて1回観ればまるまる分かってしまう凡庸なSF映画にしておきながら、「原作が好きなので舞台は日本じゃないけど海外でも有名な日本のビートたけしを抜擢したよ」と言い訳しているようにしか感じられなかった。
全体に伏線が少なく、細かい描写が少なく、単純明快で攻殻機動隊とは別な作品となりました。せめてタイトルも登場人物名も原作と違う、inspiredな作品であれば3.5まで評価したと思います。ハンカ社の名前宜しく全て生半可な作品です。