「歴史資料的側面の強い作品」菊とギロチン jeromisunさんの映画レビュー(感想・評価)
歴史資料的側面の強い作品
女相撲というものの存在もあまり知らなかっただけに、
冒頭で描かれたポロリシーンが女相撲のなんたるかを語っているのかと思わされたが、そこではなかった。
しかし、話を見た限りでは、女相撲は一種の見世物的要素が強い大衆娯楽として間違いではないのだろうが、中には相撲取りとして勝ちたいという気持ちのもと稽古に励む女性力士という存在、それらの中間に置かれた存在もいたりと実に複雑極まりない世界であったのだろうと想起させられた。
菊とギロチン。
女力士の花菊と革命家集団のギロチン社。
形は違えど、現状打破、相手に勝ちたい、強くなりたいという思想のもと、日々戦う者の交流と別れを描いている。
政府や警察、自警団の取り締まりが厳しい中、社会主義思想を掲げ、略奪をして富の再分配を行うギロチン社は、彼らが掲げる大義名分は最後の最後まで果たして成し遂げられたのか、本作では描き切られていないが、中濱と大次郎は無政府主義という確たるエネルギーに燃え突っ走る姿は愉快痛快。
危険と隣り合わせでも、臆することなく政府に楯突こうと、世界を変えようと動く姿はヒッピーのようで鮮烈な印象だった。
DV夫のいる家庭を飛び出した花菊は、力士となり相撲に打ち込む姿はさながら自分の立場への抵抗のようで、強くなりてえという自身の言葉から実に滲んでいた。
花菊のいた玉岩相撲には、震災時の難を逃れた朝鮮人の力士・十勝川がおり、当時の政府の対応もリアルに描かれていた。
邦画にしてはかなりスケール感が大きく、時代考証を注意深く行ったであろうロケ地も圧巻だった(全体的にボロめだけど、その質感を出せることに驚いた)。
皆が自由を追い求めてもがいたであろう、大正から昭和初期の激動の時代。
とても勉強になる映画だった。