「熱量たっぷりに時代の空気感がビシビシ伝わる大正時代劇」菊とギロチン Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
熱量たっぷりに時代の空気感がビシビシ伝わる大正時代劇
瀬々敬久監督によるオリジナル、渾身の189分(3時間9分)の大作である。最近の瀬々監督といえば、実話感動作の「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(2017)が思い浮かぶが、 基本的には「友罪」(2018)や「64 ロクヨン」(2016)などの社会派の人間ドラマが多い。
オリジナル作品は、やはり278分の「ヘヴンズ ストーリー」(2010)以来8年ぶりで、長尺作品でこれだけ見せる人はいない。
大正末期。関東大震災(1923年9月1日)直後、格差社会の閉塞感に苦しむ国民の苦しみの中、政治思想家や社会運動団体が乱立した大正デモクラシー(1910~20年代)を背景に、国民が平等に幸福を追求できる国家をめざす青年たちの群像劇である。
本作は創作された"女相撲"の新人力士・"花菊"と、実在したアナーキスト(無政府主義)グループ、"ギロチン社"の中濱鐵と古田大次郎らの出会いと交流を描いている。
アナーキーを血気盛んに叫ぶオトコたち、ワケアリで女力士に身をやつしたオンナたち。
中濱鐵(なかはま てつ/1897年~1926年)は、実在の人物で大正時代の無政府主義者。田中勇之進や古田大次郎らとともに起こした一連の"ギロチン社事件"で逮捕され、29歳で死刑執行されている。
震災と混乱の時代、大正デモクラシーの民本主義と天皇陛下の存在、シベリア出征の理由…体制側の都合に振り回さられる一般国民。格差のない平等社会への理想を掲げて、そこでたぎる若者たちの熱い想い。熱量たっぷりに時代の空気感がビシビシと伝わってくる。
また本作には"ギロチン社"のほかに、"労働運動社"、"在郷軍人分会"、そして女相撲・"玉岩興行"が登場する。それぞれの立場で生きる理由があり、ギリギリの生活がある。
ちなみに本作においての"女相撲"は、アマチュアスポーツとしての"女子相撲"とは別物で、大正時代に存在した"見世物"としての興行である。
オンナに相撲を取らせるというのは、興行的なエロチシズムを否定できない。劇中で描かれているように、警察当局の取締りの中で行われていた。
"女相撲"を神事としての古代日本史とむりやり結び付けて、"女子相撲"の起源とする意見があるが、私はこれを支持しない。かといって、現在の相撲協会のならわしも多くがマユツバものであるのだが…。
女相撲力士・"花菊"役に木竜麻生、"十勝川"役に韓英恵が務め、ギロチン社の中濱鐵役を東出昌大、古田大次郎役を寛一郎が演じている。
(2018/7/8 /テアトル新宿/シネスコ)