「不安の正体」羊の木 unangpさんの映画レビュー(感想・評価)
不安の正体
地味な地方の街で、地味な話が展開する映画。地味なので映画好きな人しか見ないのではないかと思われ、それが勿体ないと思うのであります。
この映画は、不安の映画です。
どうしようもなくて殺人を犯した元受刑者達が、どうしようもなくて地方の街に移り住む。地方の街も行き場を失っており、どうしようもなくて彼等を受け入れる。その地方の街の市役所の職員の主人公も、どうしようもなくて仕事として元受刑者達の世話をする。
それぞれがどうしようもなく、行き止まりしか見えない中で、どう生きるのか。そして、死ぬのか。
この監督が見せたかったものは、行き止まりとしての死/殺人と、その向こうにあるものは何かということなんだろうと思います。
それぞれがどうしようもない事情を抱えていて、死/殺人はその途上でどうしようもなく起こる。殺人は悪だが、しかしそれを避けられなかった彼等は悪魔でもなんでもなく、人間なのであって。
私達は何をもってその人達を認め、何をもって情を交わすのか。
常識で言ったら、殺人者なんて人間じゃないし、情を交わす理由など無い。しかし、彼等も人間だ。あなたが市役所の担当職員として彼等と接しなければならなくなったとしたら?
その時、自分の常識が崩されていく。
どうしようもなく、人は人を殺すのだ。
どうしようもなかったんだ。その人自身には罪なんてないじゃないか、と思えてしまう瞬間がある。
そう、常識人だと思い込んでいた我々自身だって、いつ常識の垣根を踏み越えてしまうかわかりゃしない。
この映画は不安の映画だ。
不安の正体は、それだ。
この映画を見ている俺だって、人を殺すかも知れないじゃないか。
殺さないのが常識で、殺してしまうのが非常識。
ほんとうにそうか?
その基準は?
確たる基準はあるか?
見終わった後の後味の悪さ。
これは人が根本的に抱える不安なのだろう。
吉田大八監督、さすがです。