笑う故郷 劇場公開日 2017年9月16日
解説 主演のオスカル・マルティネスが、2016年・第73回ベネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したコメディドラマ。故郷のアルゼンチンを離れ、30年以上スペインで暮らしていた主人公のノーベル賞作家・ダニエルが、アルゼンチンから名誉市民賞を授与されることになり、2度と戻らないと思っていた故郷へ戻ることを決めたことから、思わぬ展開に巻き込まれていく様子を、ユーモアとウィットを交えて描く。2016年・第13回ラテンビート映画祭および第29回・東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門では「名誉市民」のタイトルで上映された。17年に劇場公開。
2016年製作/117分/アルゼンチン・スペイン合作 原題:El ciudadano ilustre 配給:パンドラ
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2022年7月31日
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原題は『著名な市民』『笑う故郷』では、誰が主語かで違ってきます。僕はこの主人公が笑っていると思いました。この作家が行き詰まりを感じ、突然良いアイデアを思いつき、『シメシメ』とこの故郷を心の奥底で笑っていたと思います。いわば、確信犯だと思います。故郷の人は笑っていません。怒っています。 『タンゴ』には『アルゼンチンタンゴ』と『コンチネンタルタンゴ』があります。 つまり、スペインから見れば、アルゼンチンこそコンチネンタルなはずです。イギリスから見ればアメリカがコンチネンタルですからね。政治を語るなと言ったニュアンスを語りながら、自虐的にアルゼンチンの発展途上振り馬鹿にして、それをネタにして私利私欲を貪っています。本音が分かれば、怒って当たり前でしょう。 市役所の待合室にエビータとペローの写真がもっともらしく飾られていますが、彼等は独裁者と言われましたヒトラー、フランコ、ムッソリーニとも関係がありました。この辺がこの作者が言う古い社会に留まっていると言うことだと思います。朝鮮民主主義人民共和国の金親子の写真を飾っているのと同じです。それは兎も角。 『Don't Cry for Me Argentina』ですね。
2022年6月7日
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鑑賞方法:DVD/BD
そして、微妙な空気が、続く。 ときに、シュールな演出。 「最後に笑うのは誰か?」
ノーベル賞作家が40年ぶりに故郷の片田舎を訪れる話。招聘され、数日滞在し講演や街の行事をおこなう。むろんフィクションであり、コメディの体裁がある。成功者が辺鄙で酷い目に遭うスラップスティックなものを想像した。 はたしてそんな感じで進むものの、辛気くさい。笑えるというよりAwkwardに耐える感じだが、かえって現実的でもある。 田舎には暗愚な人たちがささやかな自尊心を守りながら生きている。が、世界的に有名となった作家マントバーニ自身も、けっこう俗物である。両者は相容れず、どちらの望みも叶わない。 見た目も技法もamateurishだが、徐々に辛辣になり、個人的にはコメディにはならなかった。地方という社会は、ここに示されたカリカチュアと五十歩百歩だからだ。 わたしは飲みながら友人に「知ってるか?文化会館が立派なほど田舎なんだ」とか「地域活性化ってのはな、成功しなかった人のする活動のことだ」とか、言ったことがある。ささやかな自尊心を守りながら生きている田舎者とはいえ、みずから卑下してみるのが好きだ。 マントバーニは、芸術家肌のいけ好かない人物像だが、意外に核心を突いている。インテリではあっても聖人ではないから、降って湧いたpussyを拒絶せず、古い色恋に揺れたりもする。が、三回の講演──徐々に減る聴衆を前にしても真摯にこなし、美術展審査の不本意を正しもする。Awkwardだが、成功者/有名人とて凡そこんな感じだろう。 映画のプロモーションポスターがアワードの月桂冠に囲まれていることがある。が、映画のアワードは有象無象、サンダンス以外ほとんど信じられない。 この映画も月桂がぐるりと囲んでいたが、妥当に思う。 地元/田舎とは滑稽なところであり、有名になったなら帰郷するのは間違いである。──個人的にはリアルなドラマだった。
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前半はほのぼの路線。故郷の人々の貧しくも暖かいモテなしに、こちらも日本を離れて15年の身として、それだけで結構ウルッとした。市民美術展の審査で地元の権力者とひと悶着あり、その後色々とありながらもなんとか乗り切っていくのかと思いきや、まさかのラストで度肝を抜かれました。 美術展の開会式で、文化とは何かということについての意見を述べるんですが、その洞察がすごい。当方も美術制作を行っているので、文化政策についてモヤモヤとすることが多いのですが、核心をついた内容が心に突き刺さります。 文化とはそもそも人が住む場所には自然に存在するのだ。それを保護やプロモーションだということを言い始めると、事がおかしくなる。文化政策は100%経済的な利益が目的である。と、大学の先生が言っていましたが、結局はそこにしがみつく自治体や政治家、住民、作家が作り上げる共同体に過ぎないのかもしれません。 もちろんそんなに事は単純ではなくて、ハイアートはそもそもそういったポピュラーな表現との垣根を作ることで成り立っていて、多くの主知主義的な生産物はそこから排出される分けですから、一概に文化政策を否定することはできないんですが。 出身地の田舎の文化イベントや現在住んでいる街のことを考えると、全然笑えない、非常に恐ろしい内容で、考えさせられました。
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