「難解な原作を分かりやすくしようとしたら」メッセージ 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
難解な原作を分かりやすくしようとしたら
映画を観て、いくつか納得いかない点があったので、
原作「あなたの人生の物語」(邦訳)を読んでみた。
邦訳を選んだのは、英語版より安かったからという理由でしかなかったんだけど、日本語でよかった。
言語学と物理学の話が難しくって、
日本語で読んでも難解なんだから、
英語だったらチンプンカンプンだっただろう。
ともあれ
「フェルマーの原理」(最小時間の原理)が鍵だ
というのは分かった。
「光は、進むのにかかる時間が最小になる経路を通る」
という原理である。
それは光という無機質の存在が
「通ったら結果的に最小時間だった」というのではなく、
まるで意志あるごとく
「最小時間になることを知ってからそこを通っている」
かのように見える、というもの。
これが、この作品の核心であったはずなのだが、
映画では、そこに触れることはなかった。
その結果、
物理学者が登場する必然性もなくなり、
イアン(ジェレミー・レナー)の「仕事」が、
ネタバレしないと言えない「あのお仕事(いやむしろ本能?)」を除いて、なくなっちゃった。
それから、
音声によって時系列で語られる言語と
そうでない言語について――
英語という
表音文字しかない文化に支配されてる感じが
原作にも否めないんだけど、
映画ではそれが、より強くなってる気がする。
音声の時系列に支配されない文字
という点では、
(地球では)漢字がその最たるものだと思うんだが、
それに言及しないというのは
間が抜けてる。
あと、
原作では結局「それ」の目的が不明だったのに対し、
映画では目的を持たせた。
そうでないと客が面白がらない、と思ったんだろう。
でもなんだか安っぽい感じを否めず。
結局、映画は
「分かりやすい面白さ」を目指したがゆえに
穴だらけの中途半端になっちゃった、
という感じ。
画像と音響の醸し出す雰囲気は
よかったんだけどねぇ。
残念。