「未来の記憶」メッセージ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
未来の記憶
突如世界の12か所の上空に飛来した異星人の宇宙船。彼らの目的はいったい何なのか。彼らとコミュニケーションを図るために言語学者のルイーズが呼ばれる。
彼らの使う文字は円環構造を有していてその解読は困難を極めた。その解読の間にも世界大戦の危機が迫る。はたして彼らの真の目的は。そして彼らの使用する言語の意味とは。
人類を圧倒的に凌駕するはずの科学技術の持ち主である異星人とのコミュニケーションになぜここまで苦労を強いられるのか。実はこのコミュニケーションを図ることこそが彼らの目的であった。コミュニケーションを図ることにより人類に彼らの言語を学ばせ彼らの思考力を身に着けさせることこそが彼らの真の目的であった。
彼らの思考、それは彼らには時間という観念がないということ。彼らの中には時間の流れという観念が存在せず常に過去、現在、未来という時を同時に生きる存在であった。
数千年後の未来に彼ら異星人は地球人類の協力を必要とした。その時を見越しての人類との今回の接触。世界の複数個所に偏在したのは人類の可能性を探るためであった。
同じ地球人という種族同士であっても言語の違いや価値観の違いで争いが絶えない人類。異星人間であってもコミュニケーションを惜しまず互いを理解しようと努力すれば必ず理解し合える。それこそがいまだ世界中で常に紛争が絶えない人類に対する彼らが与えたメッセージだった。
彼らの言語を解読し彼らの思考力が身についたルイーズは中国海軍との世界大戦阻止に成功する。彼女も彼らと同様に時間に対する観念が変化し自身の未来が手に取るようにわかるようになった。
異星人の言語解読の最中にもルイーズに頻繫に訪れたフラッシュバック。そこに映し出されるのはいつも同じ少女の姿。この少女はいったい誰なのか。それはルイーズが生んだ娘ハンナだった。正確にはルイーズがこれから生むはずである娘。そして幼くして病で命を失う娘。
ともに解読に携わったイアンとの間にできた子供だった。彼ら異星人との接触でルイーズは自分の運命を見通せるようになっていた。
愛する娘を授かり、そしてその娘を失う運命を見てしまった彼女は果たしてどうするのか。あえて哀しみを受け入れるのか。あらかじめ知らされたその運命をあえて受け入れるのか。
たとえ失われる命であっても彼女は娘を生むことを決心する。たとえ短い命であっても娘はその生涯を生きた、そして彼女はその娘を愛した。すでに体験した未来。彼女はそれを受け入れる。例え哀しみを背負うこととなろうとも娘を授かることの幸せを味わうため、短いながらも命の限り生きた娘とその喜びを分かち合うために。
それはすでに経験していた未来だからこそ彼女はそれを受け入れられたのかもしれない。娘のHANNAHという名にこめられた意味、ヘブライ語で恵みという意味を持ち同じ円環構造を持つその名前。すべての物事には始まりがあり終わりがある。今までもこれからも未来永劫繰り返されるであろう人のいとなみ。だからこそルイーズはそれを受け入れる。
人の人生には必ず終わりが来る、どうせ終わりが来る人生ならば始まらなければいいなどとは誰も思わない。終わりが来るからこそ、その人生の一瞬一瞬を嚙み締めて生きたい。生きる喜びも悲しみも同じように嚙み締めてやがて終わりを迎えるであろう一度きりの人生を生きていきたい。
SFというジャンルでありながら人生の普遍的な意義を問う珠玉の作品。間違いなく人生五本の指に入る作品であり、心の中にずっとしまっておきたい名作。