「.」メッセージ 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて鑑賞。原題"Arrival"。所謂ファーストコンタクトもので、大きなネタバレをするなら次元や時空を自在に操る存在が登場するループした物語──これだけ聴くと、『コンタクト('97)』や『インターステラー('14)』辺りを想起するが、本作は冒頭からミスリードを誘うトリックが仕掛けてあり、一見錯綜する様な作りに翻弄され、後半迄殆どそれに気付けなかった。画面や表現が詩情的で個性的ではあるものの難解ではない。ただそもそも“ヘプタポッド”が出現しなければ、混乱は無かった筈で、その点に矛盾を感じた。65/100点。
・本作のもう一つ大きなファクターとしてコミュニケーションがある。同じテーマとして『バベル('06)』と比較してみると違いがよく判る。『バベル('06)』では、言語を通し分断され混乱して行く様を通し、意思疎通の難しさが描かれている。一方、本作では“ヘプタポッド”の円形の表記法(文字)が象徴する様に疎通や伝達が理路整然とし、閉ざされ、円滑で簡潔に以心伝心が図れており、ループする物語と相俟って、或る意味完成された印象を受ける。
・製作時のワーキングタイトルはT.チャンの原作『あなたの人生の物語 "Story of Your Life"』であったが、テスト試写の際、ウケが悪かったので『メッセージ "Arrival"』に変更された。原題では何が到着・到来したのか、何に到達したのかと思巡すると趣深いが、その意味で邦題は相変わらずニュアンス違いで、ピント外れに思える。亦、運命論や宿命で本作を計ると、解釈が胆略的で簡潔になる反面、本作の持つポテンシャルや魅力が半減するのではないだろうか。
・劇中に登場するネーミング、“アボット”と“コステロ”とは、'40年代~'50年代に活躍したバッド・アボットとルウ・コステロによるお笑いコンビで、“凸凹”シリーズとして23作の映画に出演、'60年代には二人を主役にしたTVアニメも製作されている。T.チャンの原作では“フラッパー”と“ラズベリー”と名付けられている。尚、イタリア版では、“トム”と“ジェリー”に替えられており、途中言及されるシーナ・イーストンもピンク・フロイドに変更されているが、孰れもイタリア国内の知名度を考慮しての判断らしい。
・音楽のJ.ヨハンソンは過去に『プリズナーズ('13)』、『ボーダーライン('15)』で監督と組んでおり、本作では監督の意向で、本篇撮影前に劇中曲の録音を始めている。このコンビは最新作『ブレードランナー 2049('17)』でも四度、タッグを組んでいる。
・ループと云えば、登場する“ハンナ(T.チャンの原作には名前が無い)”が回文(Hannah)になっているが、“イアン・ドネリー”を演じたJ.レナーのファミリーネーム"Renner"も回文を成している。
・“ヘプタポッド”の乗る艦のデザインは、実在する小惑星“15エウノミア”が元になっている。これは監督が奇妙で不思議な卵の様なフォルムに惹かれ、脅威と謎を感じさせるとして採用された。T.チャンの原作では“ルッキンググラス(姿見)”と名付けられ、米国だけで9隻、世界中に112隻も出現する。尚、栗山米菓のスナック煎餅菓子“ばかうけ”との類似は偶然である。
・A.アダムス演じる“ルイーズ・バンクス”がホワイトボード上に、何処から何を目的に来たかと書く真上には、エントロピーの有名な公式が見える。T.チャンは、A.アインシュタインの「過去・現在・未来の区別は単なる幻想にすぎない "The distinction between the past, present and future is only a stubbornly persistent illusion."」と云う名言を、常に念頭に置いて原作を書き上げたと云う。亦、T.チャンによると、そもそも本作は、変動原理とフェルマーの原理(最小時間の原理)にインスピレーションを得て、創作したと語っている。
・本篇に登場するヘルメットは、サンストローム社製の呼吸用保護具ユニットを改造したものを使用している。亦、監督の娘サロメ・ヴィルヌーヴ(Salome Villeneuve)は、化学防護服のスペシャリスト "Hazmat Suit Specialist"としてクレジットされている。
・鑑賞日:2017年6月11日(日)