「未来を知っても、いま以上に愛したい」メッセージ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
未来を知っても、いま以上に愛したい
ある日、世界の12地域に黒い巨大物体が現れた。
それは莢のようでもあり、殻のようでもある。
宇宙からの飛来物体であるそれに、各国は接触を試みる。
米国でも同様。
先に接触をした米軍はその殻の中に二体の生命体がいることを発見し、彼らの飛来目的を探ろうとするが、彼らが発する音声は解読不能。
そこで白羽の矢が立ったのが、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)。
物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)とともに二体の生命体と接触を図り、音声言語による接触を諦め、視覚的言語(文字)によるコンタクトを図ることにする。
20日近く経て初めて解読できた彼らの言語は「武器を使え(Use Weapon)」というものだった・・・
というところから始まる物語は、21世紀の『未知との遭遇』というに相応しい。
七つの脚のようなものを持ち、タコに似た形態の二体の生命体は「ヘプタポッド(七つの足の意味)」と名付けられ、それぞれが「アボット」「コステロ」と20世紀の米国喜劇俳優コンビの名をとって付けられるあたりが可笑しいが、彼らが発した「武器を使え」の意味、そして彼らの飛来目的は何かというところを興味の焦点として、映画は進んでいく。
が、映画は巧みにミスリードを含めて、ルイーズの物語に収斂していく。
繰り返しルイーズの脳裏をかすめる「いまはいない」娘との暮らしの映像。
それが何を意味をするのか、なかなか意味を掴めない。
ただわかるのは「いまはいない」ということだけ。
その後、物語は、ルイーズの心とリンクし、観客の心をシンクロナイズさせていく。
多くの映像は、中央の対象(その多くはルイーズである)のみをくっきりと捉え、その背景にいる人々、背景にある物体は霞んでいる。
飛来物である殻のなかでのヘプタポッドとの接触も、ヘプタポッド側は靄の向こうに霞んでいる。
そういう映像手法で、観客の心をルイーズの心とシンクロさせていく。
そして、「いまはいない」娘との映像は、ヘプタポッドとの接触を繰り返す度に増えていく。
これは、ルイーズにとっての大きな変化であり、最終的にヘプタポッド側の領域に入った瞬間に、「武器」の意味も、脳裏をかすめる娘の映像の意味も理解する。
そんな最中に、世界各国の12の国・地域では、飛来物との武力衝突(いわゆる駆逐・掃討)のカウントダウンに入ってしまう・・・
ヘプタポッド側に入ったルイーズが知る事実(そして、得るもの)は、驚愕のひとことである。
武器=戦うための道具ではなく、まったく別の道具であること(それは、ルイーズが言語学者であることそのものに由来してほかならない)がわかる。
そして、もうひとつ、ヘプタポッドの世界における時間の概念は、我々が感じる時間とはまた別のものでもある。
過去も未来も現在も並列で存在する。
しかし、現在は現在であり、未来は未来である。
もうほとんどネタバレなのだが、ネタバレついでにもうふたつ。
ルイーズの娘の名前はハンナ(HANNAH)、前から綴っても、後ろから綴ってもHANNAH。
ルイーズがイアンと交わす印象的な台詞がある。
「その人との未来を知ったら、あなたはどうする?」「いま以上に愛するよ」
この台詞には泣けた。
観終わって、もう一度観たくなったら、それはこの映画のことがわかった記し。
未来を知っても、いま以上に愛したい、その気持ちは忘れたくはない。