「『形だけでいいから...。』というところにこそ潜む本質」沈黙 サイレンス bladerunner995さんの映画レビュー(感想・評価)
『形だけでいいから...。』というところにこそ潜む本質
宗教的バックグラウンドがないだけに、
余計にキリスト教文学の深さに驚かされ、キリスト教と日本の仏教観についてより深く知りたくなる作品でした。
何度か出てくる、
非常に日本的な『形だけ...』というのが非常に印象的で、
日本の隠れキリシタンを題材にしてキリスト教を描く本質的な深みがここにあるのではないかと感じます。
最後にロドリゴが火葬されるシーンでキリストの像を握りしめているカットが入っていることからも分かるように、
(しかも恐らくは死後に妻が本人の意思を察して?そのように握らせて火葬されたのかもしれないと思えば、)
単に批判的な観点ではなく、
日本的な共同体の中では自我を抑えて『形だけ』でもその場を成立させなければならない文化、民族性があり、
たとえ、そのような背景においても個人の信条というものは奪えないものであるということについても考えさせられました。
フェレイラもロドリゴもキチジローも全員転んでいますが、
置かれた環境と状況に合わせてその信仰の形を進化させただけであって本質的な棄教はしておらず、
その心の中では各自の宗教観が生き続けているように見えました。
かつての自分の師がこれまでの教えを全否定するという、
それまでに生きてきた人生や自分自身の誇りや生きる糧を一瞬ですべて否定されるような強烈な場面は釘付けになります。
原作も読みましたが、
自分自身の信念を曲げることが出来ずに殉教する(それまでの価値観にこだわる)ことが、
はたして本当に正しいといえるのか?
という問いかけは普遍的で、
キチジローの惨めに苦悩する姿や、転んだ宣教師たちの姿を軽蔑するマッチョな世界に対する違和感を気づかせてくれます。
そして同時に、
カトリック思想が強く、神学校で学んだこともあるというスコセッシ監督が28年かけて完成させたというカタルシスに思いを馳せると感慨深いものがあります。