「なおさら日本語吹替版が、"是非もの"である」KUBO クボ 二本の弦の秘密 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
なおさら日本語吹替版が、"是非もの"である
日本を舞台にした純アメリカ製ファンタジーアニメである。その驚くべき完成度は、子供向け・成人向け問わず、間違いなく今年ナンバーワンアニメといっても過言ではない。広い見識と経験値のあるオトナにこそ観てもらいたい、上質なアニメーション作品だ。Universal Studioは、黄色いバナナ生物の群れだけじゃなく、ちゃんとこういうのも配給できるってワケ(笑)。
主人公のクボは、魔法の三味線で、折り紙を自在にあやつる片目の少年。不吉な子どもとして一族から命を狙われており、病弱の母と2人で隠れて暮らしている。ある晩、クボは追手の叔母たちに見つかり、母親の命懸けの力で救われるが、独りぼっちになってしまう。母が最期に言い残した"3つの武具"(兜、刀、鎧)を探し出し、自分の出生のヒミツを解き明かす旅に出る。
本作は、アメリカの独立系アニメスタジオ・ライカ(Laika, LLC.)によるストップモーションアニメ作品。ライカは、「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(1993)や「ティム・バートンのコープスブライド」(2005)に参加したチームを中心に設立され、「コララインとボタンの魔女 3D」(2007)以降、アカデミー賞やゴールデングローブ賞のアニメ部門の常連である。
そして本作「KUBO」も、米国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞にノミネートされたほか、英国アカデミー賞では最優秀アニメ作品賞を獲得している。
言うまでもなく、その技術は世界最高峰である。ストップモーションというと、「ウォレスとグルミット」シリーズの英国アードマン・アニメーションズ(Aardman Animations, Ltd.)の粘土を使ったクレイアニメが思い浮かぶが、ライカはセットを組み、人形(またはロボット)をコマ送りで動かす。サイズが大きいものになると、もはや実写映画の現場並みである。それをコマ送りで動かすという途方もない作業だ。
ライカのCEOであり、本作で初の長編監督を務めたトラヴィス・ナイトの、本作における日本リスペクトが半端ない。
黒澤明と宮崎駿を敬愛するトラヴィスは、日本人が忘れかけたものを米国人の視点で思い出させてくれる。日本の"お盆の風景"、"灯篭流し"や”."盆踊り"、"花火"、"折り紙"の美しさ、"三味線"や"和太鼓"の音だけでなく、日本の昔話や神話のたぐいまでをエッセンスとして、本作に散りばめているのだ。"3つの武具"は、三種神器を想起させるし、KUBOが片目なのは、伊達政宗か。
全体のデザインイメージは、"浮世絵"ないしは"木版画"をイメージしていて、冒頭の高波のシーンは、葛飾北斎だろう。また骸骨のバケモノは歌川国芳が「相馬の古内裏」で描いた妖怪"がしゃどくろ"である。がしゃどくろをロボットで作るのはアニマトロニクスの手法だが、それを通常スピードでなくストップモーションにしてしまうというのは、贅沢きわまりない。
多少ネタバレになるが、"月の帝"と地上に降り立った、その娘(姫)と人間の恋愛は、"竹取物語(かぐや姫)"である。月の帝を倒して、民に平和をもたらすKUBOは、その子孫であって英雄伝的な叙事詩になっている。
"KUBO"という名前は、友人の"久保さん"から取ったようだが、ウソでもいいので"KUBOU"にしてしまえば、"公方(くぼう)"、すなわち天皇・朝廷をイメージさせ、皇室神話的にミステリアスに妄想できたりしてして・・・。
これだけ日本や日本文化、日本語に理解があるとなると、日本語吹替版のこだわりがモノ凄い。
KUBO役は矢島晶子(「クレヨンしんちゃん」の野原しんのすけ)がさすがだし、ピエール瀧、川栄李奈、小林幸子などが名を連ねる。
日本語吹替版だけ、エンドロールの主題歌で、吉田兄弟がザ・ビートルズの「While My Guitar Gently Weeps」を三味線でカバーしている。これもライカ社のオファーだそうで、吹替版も、"是非もの"である。
(2017/11/19 /ユナイテッドシネマ アクアシティお台場/シネスコ/日本語吹替版翻訳:遠藤美紀)