「原作を読んでください」斉木楠雄のΨ難 炎栖覇さんの映画レビュー(感想・評価)
原作を読んでください
(このレビューはY!の文字数制限で書けなかったことを加筆したものになります。誤字脱字あったらすみません)
斉Ψの実写は「〇魂」のこともあり(許せない改悪が多々あった)不安ではありましたが、前売り券を購入し、公開日の初回を観に行きました。観た直後は怒りで文章にならなかったからということと、12日に金曜ロードショーで放映されるということでこのタイミングでレビューを書きます。
文がかなり長くなると思うので、カテゴリーに分けて書きます。
【全体の雰囲気】
文化祭を軸に、原作の他エピソードや当時未アニメ化のネタを使用したストーリーになっています。しかし、監督がギャグを考えるときに柱にしていたのが「山﨑賢人がこれまでやってきたキャリアの『セルフパロディ』」であり、コンセプトが「斉木楠雄と照橋心美のちょっと行き過ぎたラブストーリー」で「今までに山﨑賢人がやってきたスウィート系の作品の最終形態」なので、「斉木楠雄のΨ難」の面影はほとんど無いです。奇抜な髪、意味不明な言動をする生徒たちがしっちゃかめっちゃかやっているだけです。起承転結とかそんなのありません。奥さんに勧められた俳優を起用して、自分のやりたいギャグをやっているだけです。
斉木が個性的なクラスメイトに囲まれてΨ難な生活を送るのが原作のストーリーですが、実写の斉木は自ら災難を起こしています。いろいろ問題が起こったあとは、「この辺り」を1日前に戻して物語は終わります。私たちが見てきたものはすべてなかったことになります。
後に各キャラについて触れていきますが、海藤以外のキャラのブレ・原作とのズレが酷いです。海藤だって、中二病なところの再現度が他に比べてよかっただけです。〇魂でもそうでしたが、なぜあの監督は一人称を統一させないのでしょう。考え方も行動も、別人レベルで違いました。
原作は、なんだかんだでオチがあり綺麗にまとまりますが、こちらは「結局我々は何を見せられていたんだろう」となります。あと、再現云々の前にテンポが最悪で、映画としてもシンプルにつまらないです。
【各キャラクターについて】
●斉木楠雄
予告編でのボソボソしたモノローグが気になっていましたが、本編ではそんなに気になりませんでした。他に気になることが山ほどあったので薄れたのかもしれません。コマ外では口を動かしてることになってますが、やはりモノローグ形式に慣れているので普通に喋る斉木は違和感がすごかったです。私の記憶が正しい限り彼が甘党であるという表現はありませんでした。基本無表情なのに、コーヒーゼリーをモニュモニュしている顔が可愛らしいのが魅力のひとつでもあるのに。
他人に借りを作りたがらず、日本を襲う大噴火だって一人で止めに行こうとしていた斉木が、自分の不手際で窮地に陥って「誰か助けて…」と呟くのにはびっくりしました。というかそもそも、原作の斉木はあんなことで窮地に陥らないと思います。先に斉木が自ら災難を起こしていると書きましたが、実写の斉木はだいぶアホです。1クラス分ほどの人間を石化させるとか。石化させては教室に移動させてましたが、一緒に瞬間移動するでもなければアポートするわけでもない。サイコキネシスでも使ったんでしょうか。見た感じ一瞬で移動してましたけどね。超能力の使い方がいい加減すぎます。
能力の設定がおかしいところは他にもありましたが、特に疑問に思ったのは燃堂のその後です。石化させたら、その対象を一日前に戻す能力は使えません(死者扱いで、蘇らせられないのと一緒)。しかし物語の最後に「この辺り」のすべてを一日前に戻したと言っています。他の物を戻せたとしても、燃堂は石化したままなはずなんです。しかし、やり直した文化祭でクラスの円陣を組んだとき燃堂はいます。あ、あと制御装置の右側抜いたとき能力暴走しましたよね…
斉木は迷惑だ面倒だと言いながらも[やれやれ]とこっそり人助けする思いやりのある人間です。寒さで意識を失い倒れてきた照橋さんを避けて、マットに激突させるのは見てて辛かったです。頭がいいので制御が効かなくなってもなんとかしたはずです。一人称は「僕」と「俺」でブレてました。
●照橋心美
いや、違う…照橋さんこんなに性格悪くない…そんでもってこんなに鼻穴広げない…完璧に可愛いので… 照橋さんは自他ともに認める完璧美少女ですが、それを維持するために、そしてより人に好かれるために努力し続けているお方です。心の中ではいろんなことを考えてますが一周回って純粋です。実写では用意周到な悪女でしたが、本来の照橋さんは神にも愛されているのでこんなことしません。上目遣いで神にお願いすればクジも思い通りなんですよ。持ってきた石を見せびらかす自己顕示欲の強さがすごいです。ハートにヒビ入ったような石は夢原さんが持ってきたはずなんだけどなあ… 斉木の隣に行くためにそばにいる女子を無理やり寄せるなど、とにかく性格がハチャメチャに悪いです。
照橋さんが斉木と2人きりになるために企んだことは次の通りです。
・ここみんズのメンバーでダークリユニオン(笑)を結成させ、海藤をおびき寄せドラ〇ンボールごっこをさせる
・灰呂を10kmマラソンでバテさせる(燃堂がバテなかったのは予想外だが消えた)
・窪谷須を他校のヤンキーと対立させるため下駄箱に果たし状を仕込んだ
・ここみんズに斉木を粛正させるフリをさせて、自分と2人きりで倉庫に入り鍵をロック(ここみんズが外側から接着剤で鍵をかける)
・ガラスを最強の防弾ガラスに変えておいた
いやあ…ひどいですね。ツッコミどころが多すぎます。このとき窪谷須を元ヤンだと知るのは、テレパシーが使える斉木一人なので、照橋さんはよっぽど察しがいい… 洞察力が高いのは原作からわかるのでそれは百万歩譲っていいとして、他校のヤンキーと繋がりあるのって恐すぎだし、倉庫の細工に関してはバレたら厳重注意とか停学とかになるのでは…?ここみんズに不良と繋がれる人がいたのでしょうか… 完璧だからバレないという設定なのでしょう。
泣く演技するとき目薬さしてましたけど美少女究極奥義 天使の涙(エンジェル・ティアーズ)は…
●灰呂杵志
私が一番キャラブレてると思ったのが灰呂です。灰呂!ブレてる!ブレてる!
基本一人称「僕」なのにほとんど「俺」でした。クラスメイトを呼ぶときも「〇〇くん!」なはずなのに呼び捨てだったし… 灰呂は確かに暑苦しいんだけど、その想いがまっすぐすぎるところに好感が持てるし、だからこそ彼の周りに人が集まると思うのですが、ちょっと曲がってるところがあると思います。ていうか熱さが足りない。もっと熱くなれよ!!!誰にでも平等に接し、強い人を前にしたときは、相手を称え自分も頑張るというのが灰呂なのに、負けず嫌いの部分が強調されすぎてて悲しかったです。
あと眉毛なあ…
●燃堂力
ジャンプ読者の新井さんが演じるということで少し期待していましたが、燃堂の良さが全然表現できていませんでした。テレパシーが使えないほどのバカなんだけど、心が広くて男前な一面もあるというのが燃堂なんですが、ただの天然のような感じでした。出番も少ないし、ストーリーにもそれほど関わっていません。燃堂感を出したいならしつこいくらい「お?」と「ラーメン」を言わせておくべきではないでしょうか。監督がいかにネタの足し算引き算が下手なのかわかります。地毛とケツアゴはすごいなと思いました。
●海藤瞬
吉沢さんが原作読者ということもあってか、中二病のところは完璧でした。海藤瞬は、弱くて、怖がりで、でも友達が危険な目に遭っていたら助けに向かう、正直で優しい子です。すべてを再現するのは無理です。それはわかってます。でも、せっかく吉沢さんが演じてくれたのだから、他の一面も見てみたかった。不良に怯まない強さを身に付けていたけど、他キャラに比べると安心して見られる感じでした。
●窪谷須亜蓮
硬派な設定はどうしたんですか… スケバン(?)に「ミスコン出ないの?」みたいな声かけてて私は泣きそうでした… 硬派で愛が重いところが魅力なのに… 転校初日、黒板に名前をひらがなで書いてるのも意味わからないし… 「参上!」を癖で書いたりしないんですね。
この映画ではまだ元ヤンということは皆に知られていません。当然校内の人目に付くところで喧嘩をしないはずなんです。原作では、不良に絡まれている斉木と海藤を救って元ヤンだった過去を受け入れてもらう回(文字数の関係で書けませんが本当にいい話)があります。しかし、この映画では不良に絡まれている海藤は助けず、自分の存在が他校ヤンキーに知られると校内だろうと喧嘩を始めます。
窪谷須は真面目ぶるためにメガネを掛けていたのであって、近眼ではありません。伊達です。メガネ外すと目が4になる設定は斉木パパからの流用です。斉木パパも出演しているのになんでこういうことするんだろうほんと… 話少し反れますが、文化祭やるなら燃堂母を出したり、斉木燃堂海藤でお化け屋敷行かせたり原作通りのことをすればよかったと思います。無理にラブストーリーにしたせいで、あのトリオが一緒に行動しているところはほとんどありませんし、お化け屋敷では海藤の代わりに照橋さんが入りました。あそこで面白いのは、燃堂を見た海藤の反応なのに。
一番受け入れがたかったのが、窪谷須と斉木の濃厚な(?)絡みです。私はあの部分のどこに窪谷須亜蓮を見出せばよかったのでしょう。演じ方以前にあんなことをしてる場面は原作にないししそうなキャラでもないんです。「みのも〇た!」なんて高い声で言うキャラではありません。取って付けたようなくみこχ(「押忍!恋の果たし状」)のネタも腹立たしかったです。
●蝶野雨緑、校長
福田組 ノ ル マ 達 成 ですね。
この2人なら何をしてもいい、そういう風潮が銀〇にもあります。本当に嫌です。
【補足、まとめ】
ここまでかなりの酷評でしたが、体を張って演じてくれた俳優さんたちはとても素晴らしかったと思います。実写化になることで話題になったことも良いことだと思います。そして、こんな映画でも、スクリーンで見てよかったなと思えるのは麻生周一先生が出演してくれたからです。主題歌がゆずというのも、斉Ψが大きいコンテンツになったんだなと感じるポイントでした。これらの点から☆は2つにします。
私が心配なのは、原作未読の方が映画を見て「斉木楠雄のΨ難ってクソつまんねーな」と思うことです。この映画を地上波で放送してしまうことが恐いです。〇魂はライト層には楽しめる内容だったかもしれませんが… 麻生先生は1つのギャグが浮かぶ度『これを読んだ読者がどう思うか?』というのを考えるようにしているそうです。そうして連載が続いてきたのが斉Ψです。福田監督が描いたのは斉木楠雄のΨ難だったのでしょうか。私には到底そう思えません。
最後になりますが、この長文を読んでくださりありがとうございました。まだ原作を読んでない方はぜひ読んでみてください。めちゃくちゃおもしろいので!!!最後の最後に一言だけ、
…鳥束と夢原さんが存在しない世界線考えられない…
【参考記事】
福田雄一監督×原作者・麻生周一対談「映画『斉木楠雄のΨ難』は山﨑賢人の“最終形態”」 https://tsutaya.tsite.jp/news/magazine/i/37367398/index?sc_cid=tsutaya_a99_n_adot_share_tw_37367398