「滅びの色濃い新しいブレードランナーの世界感」ブレードランナー 2049 Ryuさんの映画レビュー(感想・評価)
滅びの色濃い新しいブレードランナーの世界感
これは今後10年、20年と語り継がれる問題作になると感じました。
退廃的に発展していた前作とは異なり、滅びの色濃い汚染された世界の片隅で何とか生き延びる人類と、人類が生み出した新しい世界の覇者となる者たちを描いた物語です。一般大衆は生き延びるのに精一杯、AIは感情豊かで繊細、皮肉にも劇中で最も「人間」らしく、レプリカントの生み出したひとつの奇跡が中心となり、原作小説のテーマに再びスポットがあたるような構成です。
映像と音楽やSEはどのシーンも素晴らしく、いずれも鮮明に記憶に残ります。個人的には汚染地域のオレンジ一色の世界(旧ラスベガス)が最も美しく印象的に感じました。潤沢な時間を惜しげもなく使い長いカット、丁寧なストーリーテリング、奇跡を体現する残酷な世界に咲く可憐な華と、薄汚れ落ちぶれた人類の対比と、非常に練られた作品に仕上がっています。
ストーリーはご都合主義とか文句を言っている方もよく見受けられますが、ラヴの衛星軌道誘導の爆撃などを見れば分かるように、これは具現化された超監視社会であり、映画のラストシーンのあとはデッカードと娘は二人とも身柄を確保されているでしょう。当然ラヴは新しいボディに入って蘇ります。つまり最初から主人公に勝ち目はない世界なんです。そこを理解してから映画を観ると、勝った負けたではなく、また別のストーリーの軸が見えてきます。
最終的にKは、LAPDやレプリカントレジスタンスのいずれにも属さず、自分の大切な記憶を共有する娘と父親を会わせるという選択を、自らの判断で行います。それも命がけで。ラストシーンの雪が舞い散る美しく白い世界で、ゆっくりと満足そうに死んでいくK、これは前作のラストのどしゃぶりの黒い雨の中、デッカードを助けて命の灯が消えていくロイ・バッティのオマージュだと気付きました。
偉大な前作を受けて続編として製作された映画ですが、前作を上回る世界を提案構築し、成功した素晴らしい作品に仕上がっています。