グリーンルーム : 映画評論・批評
2017年1月31日更新
2017年2月11日より新宿シネマカリテほかにてロードショー
突発的な暴力と死に物狂いのエネルギーが炸裂するバイオレンス活劇
他の車からガソリンをくすねながら、バンでどさ回りツアーを行っている4人組の貧乏パンクバンドが、知人の紹介でありついた新たな仕事。ところがオレゴン州の人里離れたライブハウスのステージに立った彼らの聴衆は、何と地元のネオナチ集団だった!
パンクスVS.ネオナチというトラブル不可避のキャッチーな設定に好奇心をそそられずにいられない本作は、「ブルー・リベンジ」のジェレミー・ソルニエ監督が放つバイオレンス映画だ。しかし両陣営が対立するきっかけは、イデオロギーや音楽性とは関係ない。運悪く殺人現場に居合わせてしまったパンクス、不都合な目撃者の彼らを始末しようとするネオナチ。そんな極めて犯罪スリラー的な理由によって、後戻りできない事態に陥った彼らの攻防を映し出す。
「ブルー・リベンジ」はド素人が“復讐”に手を染めたら、どんな返り血を浴びるかという残酷な話だったが、今回もソルニエ監督は特殊技能も武器も持たない若者たちを一触即発の密室空間に放り込む。物量で勝るネオナチに出口をふさがれ、ライブハウスの楽屋(グリーンルーム)に立てこもって必死の抵抗を繰り広げるパンクスの極限の脅え、震えを生々しく描出。まぎれもないジャンルムービーなのだが、まるで約束事や段取りが存在しないかのようにあらゆる出来事が突発的に起こるため、登場人物が身体を切り裂かれて大流血したり、呆気なく死亡するタイミングは予測不可能で、恐ろしいほど居心地の悪い緊張感が渦巻く。
やがて絶望のどん底で開き直り、反撃に転じるアントン・イェルチン、イモージェン・プーツの破れかぶれのアクションとセリフの掛け合いが実に素晴らしいのだが、その先にも爽快なカタルシスはまったくない。前作の冷たい“青”に続き、鈍い“緑”のキーカラーに彩られた映像世界がもたらす圧倒的な活劇体験は、やるせない徒労感、虚脱感へと集約されていく。これほど凄まじいエネルギーの発露と浪費を体感させられるライヴ、いやサバイバル映画には滅多にお目にかかれない。
最後にもう一点、奇妙な見どころを書き添えておこう。ショットガンやマチェーテなどの野蛮な凶器が飛び交う大乱戦には、よく訓練された獰猛な犬も駆り出されるのだが、闘犬だってしょせんは生き物である。ラスト直前、もはや戦意のかけらもなく、トボトボと画面を横切る犬の姿を目に焼きつけてほしい。その何とも切ない風情に、なぜか感動を覚えるのは筆者だけではないだろう。
(高橋諭治)