「この愛の姿は美しいのか、苦しいのか」ナラタージュ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
この愛の姿は美しいのか、苦しいのか
映画の配給会社に勤める泉は、大学時代の事を思い出す…。
大学時代のある日、突然掛かってきた電話。高校時代の演劇部の顧問・葉山から、演劇に参加して欲しいというものだった。
泉は高校時代から、葉山に想いを寄せていた…。
本作も近年の邦画恋愛物に氾濫する先生と生徒の禁断LOVEだが、少女漫画原作物とは違う。
原作はベストセラー恋愛小説だし、ファンタジーみたいなアホ設定でもないし、その類いの中では悪くはない出来だと思う。
それも行定勲の手腕だろう。
退屈との声も多い。確かに静かで淡々としているが、内に秘めた激しい感情が感じ取れる。
泉と葉山の共通の趣味であるヨーロッパの名作映画。それらを意識したであろう心理描写、表情や仕草一つ一つ丁寧な、大人の恋愛ドラマ。
そんな監督の演出に応えるかのように、キャストも繊細な演技を披露。松本潤もスターオーラを消した抑えた好演。
とりわけ有村架純が秀逸。濃厚なキスシーンやラブシーンも演じ、これまでで最もしっとりとした大人の女性を体現。
本作が公開された昨年は『3月のライオン』でビッチを演じ、『関ヶ原』ではアクションにも挑み、演技の幅を広げた一年だったと思う。
この手のジャンルにしては悪いタイプではなく、キャスト陣の演技も悪くなかったが、話に入り込み感情移入出来たかとはまた別。
やはりどうしても、登場人物たちの心情が解せない。
泉は参加した演劇で知り合った小野と付き合うようになる。しかし、その心の中には常に葉山が…。
葉山も泉へ特別な感情を抱いているのは明らか。しかし葉山には妻がおり、精神を病んでいる妻の事が心の重荷になっている。
好青年だと思った小野は実は束縛が強い。
それぞれ、本当に相手の事が好きでいるのか。
ただ傷付けているだけではないのか。
報われない、結ばれないのは、泉が当時を思い出す冒頭シーンですぐ分かる。
誰もがウジウジ、未練タラタラ。それを延々引きずったままの堂々巡り。
こんな痛々しく、重苦しい恋愛模様の何処に共感しろと言うのか。
だからこそ、本当は好きで好きで堪らない秘めた想い。
それを、ラスト近くの浜辺のシーンで留まらせて欲しかった。
その後の、二人が別れとして最後に愛し合うシーンは要らなかったと思う。
浜辺で別れてたら、もうちょっと感じるものは違ってたかもしれない。
好きだけど、好きになってはいけない人…。
当事者たちにとっては悲しく、辛く、苦しくも、美しく、尊い想いかもしれない。
人それぞれだが…、理解は出来ない。