「インクレディブル・ベイビー、襲来! 面白いのだがストーリーの練り込み不足が若干気になるような…。」インクレディブル・ファミリー たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
インクレディブル・ベイビー、襲来! 面白いのだがストーリーの練り込み不足が若干気になるような…。
スーパーヒーロー一家の活躍を描いたアクション・コメディアニメ『Mr.インクレディブル』の続編。
ヒーロー活動により街に被害を出してしまい、保護プログラムが取り消されてしまったパー一家。途方に暮れる彼らの下に、通信会社を経営する大富豪ディヴァー兄妹が現れる…。
○キャスト
ルシアス・ベスト/フロゾン…サミュエル・L・ジャクソン。
○日本語吹き替え版キャスト
ヴァイオレット・パー…綾瀬はるか。
第90回 ナショナル・ボード・オブ・レビューにおいて、アニメ映画賞を受賞!
前作から14年。ついにあの一家が帰ってきた♪
記念すべきピクサー・スタジオ長編映画20作目である本作の全世界興行収入は12億ドル以上。全米興行収入だけで6億ドル以上も稼いでおり、今なお全米アニメ映画興行収入ランキング第1位を守り続けているメガヒット作品である。…アメリカ人って本当にスーパーヒーロー大好きなのね💦
14年ぶりという事もあるし、アニメの世界でも数年経っているという設定なのかなと思っていたら、意外にも前作の直後からスタート。
エンディングからそのまま地続きになっているので、前作を事前に予習しておくと面白さがさらに増すかも。
当たり前だが、映像面では前とは比較にならないほどにレベルアップ。前作から続けて見てみると、キャラクター/街並み/アクション全てがとにかく洗練されていることがよくわかるはず。
オーディオコメンタリーによると、CGアニメで難しいのは人と人、人と物などの「接触」描写なのだとか。そのため人物同士のボディタッチや手で髪に触れるなどの描写は前作では極力排除していたとのこと。
そのことを念頭に入れて本作を鑑賞すると、この10年余りで3DCGアニメが技術的にどれだけ進化したのかがよくわかるのではないでしょうか。
パー一家のドタバタ劇は相変わらず楽しい!今回大きくフィーチャーされるのは、三兄弟の末っ子ジャック・ジャック。
バーニング/悪魔化/次元超越/分裂/レーザービームなど、17もの能力を所持しているがどれがいつ飛び出すのか全く予知出来ず、それに振り回されるボブの姿の面白みと悲しみが本作の見どころの一つ。
火がついたように泣き叫んだり、分裂したかのように暴れ回ったり、ロケットのように飛び出したり…。ジャック・ジャックのスーパーパワーは言うまでもなく赤ん坊の行動のメタファー。赤ちゃん育児の大変さをスーパーヒーロー映画で描くというのは斬新ながらも的を射ており、これを思いついたピクサーとブラッド・バード監督の慧眼は見事と言う他ない。
ハウスハズバンドとして慣れない育児に奮闘するボブと、スーパーヒロインとして悪の陰謀に立ち向かうヘレン。この二つの軸で物語は展開していく。
テーマにあるのは「女性の自立」と「マチズモからの解放」と言ったあたりだろうか。
女性ヒーローも増えてきているものの、スーパーヒーロー映画というジャンルにおけるメインは依然として男性ヒーロー。そして、女性ヒーローは男性ヒーローのサポートという役どころで描かれる事もまだまだ多い。
本作でも、冒頭のアンダーマイナー戦においてヘレンがトランポリンに変身してボブの攻撃をサポートするという描写があえて入れ込まれていた。
この冒頭の描写、そして根強く残る先入観から、多くの観客はボブ/Mr.インクレディブルがヒーロー活動を行うと思ったはず。ボブ本人も当然そう思っています。
しかし、そこをあえて外してくるところがこの映画の面白み!良き夫として彼女を応援したいという気持ちと、妻が自分を差し置いてヒーローとして活躍することへの嫉妬心の狭間で揺れるボブの複雑な心境は、ギャグとして笑える上に社会的な気付きも与えてくれた。
ボブとヘレン、それぞれのストーリーは見どころも多く楽しめたのだが、それだけにシナリオの若干の練り込み不足が気になってしまう。
ボブは育児を通してマチズモに凝り固まっていた概念から解き放たれ、ヘレンはヒーロー活動を通してかつての自信と活力を取り戻していく。
このように、2人が役割を交代する事で見落としていた大切なことに気が付き成長し、家族としてさらに強く結びつくというのが本作の簡単な概略な訳でそれ自体はわかりやすい。しかし、家族揃ってヴィランの悪事を阻止するというお約束を無視することは出来なかったようで、クライマックスに向けてなし崩し的に2つのストーリーラインが合流していった結果、伝えたいメッセージがなんだったのか結局あやふやなものになってしまった。
育児はスーパーヒーロー家業と同じくらい大変なんだ、というのが本作のテーマの一つでもあるのだから、ボブのストーリーとヘレンのストーリーにそれぞれちゃんとしたクライマックスを用意すべきだったのではないだろうか。
また、本作のヴィランであるスクリーンスレイヴァーの動機がイマイチピンと来ず、その計画もなんでこんなことしてんのかよくわからなかったのもこの映画の弱点。
『セブン』(1995)を思わせる薄暗いアパートでのチェイスシーンや、兄が黒幕か…と思わせておいて実は妹だったという裏切りは良かったのだが、これだけの大犯罪を犯すには動機が弱いし、そもそも既にスーパーヒーローの社会的な地位は地に落ちているのだから、彼女があれこれと画策する意味ってあんまりないのでは?
高速列車を暴走させなければそもそもこの企画自体途中でポシャってただろうし…。
オチも取ってつけたかのようにいい加減。
だって高速艇の暴走はスーパーヒーローたちが操られた事によって引き起こされた事件な訳で。
そうなると、「やっぱヒーローって危険じゃね?」と世論は傾くと思う。自分たちが引き起こした事件を自分たちが解決したからと言って、それってヒーローの復権に繋がるのだろうか…?
このクライマックスの展開だと、ただでさえヒーローに懐疑的な政府はさらに彼らへの信用を失うだろうし、最悪の場合「MCU」に出てきたウルトロンのような対ヒーローロボットを作って彼らと対立する、みたいことになりそう。…もしかしてそれで『3』を作ろうとしてる?
脚本の丁寧さが売りのピクサーにしては、今回の終盤の展開はちょっと安易。よく考えると冒頭の敵アンダーマイナーもぶん投げたままなんの回収もしてないし…。全体的に忙しない感じで、脚本にあと一歩粘りが足りない。
メッセージやギャグの切れ味(特にヴァイオレットの顔芸は最高👃✨)は良く、基本的には楽しんで鑑賞出来たのだが少々不満も残ってしまった。
最後にもう一点。映像のクオリティは前作から格段に進歩しているし、不満がある訳ではない。
だがしかし。本作が公開された2018年にはもう一本、3DCGで描かれたスーパーヒーロー映画が公開している。
それはそう!『スパイダーマン:スパイダーバース』っ!!🕷️🕸️
以後のアニメに決定的な影響を与えた革新的傑作『スパイダーバース』と比べてしまうと、本作の映像はあまりにも保守的。
堅実さと丁寧さがピクサーの強みではあるのだが、裏を返せば画作りに刺激が足りない。事実、最近ではどんどん存在感が薄れていっている感じもするし、もうそろそろこれだ!という一発をかまさないと時代に取り残されてしまうかも…。ピクサーが最も先を行っていた時代も確かにあったんだけどねぇ😮💨