「キセキ(軌跡、奇跡)とショック」キセキ あの日のソビト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
キセキ(軌跡、奇跡)とショック
本作にはどうしても一つ言いたい事があるのだが、まずは感想から。
歯科医として働きながら今も顔を伏せて活躍する音楽グループ“GReeeeN”の結成秘話と、名曲「キセキ」はどう誕生したか。
「キセキ」は素直に名曲だと思っているものの、特別GReeeeNのファンって訳でもないので、公開時はあまり興味無かったが、思ってたより良かった。
夢を追う若者たちの姿をストレートに描いた音楽青春ドラマの好編。
こういう音楽グループの映画の場合大抵はメンバーの出会いから始まって、人気が出始め、挫折、対立・確執、再び夢を諦めず…ってのがお決まりだが、本作は誕生の“背景”が主軸。
GReeeeNのプロデューサーのジンとメンバーのヒデ。実の兄弟。
兄ジンのドラマがいい味を出していたと思う。
厳格な父の反対を押し切り、音楽一本で食っていこうとするジン。メジャー・デビューの話が舞い込むが、プロデューサーから自分の音楽は必要とされず、自分を押し殺してプロデューサーからの要求に妥協、それでメンバーと衝突、壁にぶち当たる。そんな時、音楽の才能を開花させた弟の曲を聞いて…。
この時の兄ジンに胸が痛くなるものを感じた。自分は音楽一本でやってるのに、歯科医と両立させてる弟の曲の方が気に入られて。
しかし、彼には嫉妬のようなものは無かった。
忘れていたのだ。純粋に音楽をやる楽しさを。
自分は父に認めて貰おうとそればかりに執着し、意地になっていた。
弟の曲は音楽の楽しさと素晴らしさを満ち秘めている。こいつらの心を広く届けたい…。
音楽をやるのに歌うだけが能じゃないのだ。歌詞を作る人、曲を作る人、そして全てをまとめプロデュースする人…どんな形でもいいのだ。
歯科医と音楽を両立させる弟ヒデ。どちらがメインで、どちらが趣味ではない。どちらも本気なのだ。
歯を通じて患者の人生に寄り添う事の出来る、素晴らしい歯科医の仕事。
溢れる音楽への熱意。ただただ、歌いたい。
勿論、両立は困難。音楽に集中すると歯科の勉強が躓き、歯科医に身を置こうとしても歌いたい自分が居る。
音楽を諦めない兄と、両立を諦めない弟。兄弟の夢が一つになった時、あの名曲が…。
松坂桃李、菅田将暉、好演もさることながら、二人の歌の上手さ!
兄弟の厳格な父、小林薫がさすがの存在感。
にしても、この父が厳しすぎないか…?
医者である父。医者こそが最も素晴らしい仕事であり、音楽など下らんお遊び。
最後は遠回りで兄弟の音楽を認めるのだが…、妻も子供たちも話す時は敬語、正座。起こると日本刀を持ち出して…!
ほ、本当にこんな怖い父親だったの…? 一応家族のドラマも描かれるんだけど、う~ん…。
父が担当している心臓に重い病を抱える女の子がGReeeeNの曲を聞いて励まされるのが、父が音楽を認めたきっかけ。出来ればここは、その女の子が兄ジンの音楽グループの曲を聞いて…の方が良かった気もするが、まあ結果的には同じか。
それからCD屋店員の忽那汐里、勿論可愛らしいが、特に必要不可欠って役回りでもなく、ただのお飾り…。
総じて、悪くない作品だった。
さて、どうしても言いたい事とは…
今はもう転勤したらしいが、GReeeeNのメンバーが歯科医として我が福島の大学病院に勤めていたのは有名な話。
メンバーそれぞれ出身地は福島ではないようだが、福島の大学に入って、出会って、音楽を始め、歯科医も十何年と長く勤め、誕生の地と言っても過言ではない。
ちなみにGReeeeNが勤めていた大学病院は私が住んでる市にあり、その病院に通った事もあり、ひょっとしたら擦れ違った事も!…なんてね(笑)
なのに、福島とは切っても切り離せないのに、福島の描写が全く無いのは何故!?
撮影も福島で行われていない。
劇中の大学病院も明らかに関東の…。
公開時は地元のローカルニュースでも結構取り上げられていたのに…。
○○市の駅前広場にはGReeeeNをモチーフにしたオブジェがあるくらいなのに、せめて…。
ちょっとショックだった。