忍びの国 : インタビュー
「嵐」大野智、これ以上ないハマリ役 最強の忍者役も「猫背もそのまま」
「嵐」の大野智が、これ以上ないほどのハマリ役に出合った。戦国エンタテインメント大作「忍びの国」(7月1日公開)で演じた主人公・無門は、まさに「大野智そのまんま」。最強の忍者という特殊な役どころでも、「監督から『役づくりはしなくていい』と言われていた」そうで、その言葉通り、スクリーンに映る無門と大野のパブリックイメージに、ほとんど相違はない。(取材・文/編集部)
「のぼうの城」などで知られる和田竜氏の小説を基に、大野と中村義洋監督が「映画 怪物くん」以来約6年ぶりのタッグを組み映画化。物語の舞台は戦国時代、忍者の里として名高かった伊賀国だ。織田信長の次男・織田信雄が独断で伊賀に侵攻し、返り討ちにあった天正七(1579)年の「第一次天正伊賀の乱」を題材に、怠け者だが最強の忍者と称される無門(大野)の活躍を描いている。
死線を間近にしながらも、柔和な言動と脱力した姿勢を崩さず、一目惚れしてさらってきた妻・お国(石原さとみ)に頭が上がらない無門。大野は「最初、監督から『そのままやってくれ』と言われて、逆に難しかったですね。自分とはガッツリかけ離れた役のほうが入りやすいんだけど、そのままの方が難しい部分はあったかな」と振り返る。
文字通り自然体で撮影に臨んだだけに、“役”と“自分”が切り替わる瞬間は、ほとんどなかったようだ。「忍者の姿勢や基礎的なものが僕にはなくて。侍だったら背筋を伸ばして、腰を入れてというのがあるけど、何も言われなかった。僕はもともと猫背だけど、そのまま演じているから、無門のときと普段が何も変わらないんです。家にいても無門と言えば無門だし、撮影していても大野智だしという感じで、切り替わる瞬間もあまりなかったんですよ(笑)。最後のシーンでは感情的になりましたが、それ以外のヘラヘラしているところは、自分と変わらないです。それが監督的に『無門らしい』ということなので。映画を見て『あれ、大野智じゃん』と思った人は、山ほどいると思います」。
一方で今作の伊賀忍者は人にあらず、金のためなら昨日の味方の敵に回り、仲間が犬死しようと屁とも思わない“虎狼の族”として描かれている。無門も例外ではなく、愛らしいキャラかと侮ると、あたかも当然のように人を殺め、「死ぬのは弱いからだ」と冷酷に言い放つさまを見た瞬間、観客は冷や水をかけられた感覚に陥る。大野は「確かに、演じていて無門が怖くなるときがありました」といい、「セリフを言っていても、客観的に見ても『何を考えているんだろう』と思う場面がありました」とも語る。「無門はただ強いだけではなく、そこには心の傷があって。やっぱり孤独だっただろうし、自分の過去を忘れたいがゆえに、何か夢中になれるものを探していたのだろうと思う。そこで強さを極めてしまったというイメージでした。単純ではないところが魅力でした」。
また合戦のシーンは、時代劇としては型破りとも思える、予測不能のアクションが次々と披露される。パルクールのようにアクロバティックな身のこなしで忍者たちが参集するさまは、さながらサーカスだ。無門が織田軍の包囲網のど真ん中で立ち回るひと幕では、キレのあるダンスのステップで刃をかいくぐっていく。役どころを含め、主演・大野を最大限活かしていると言えよう。
それでもクライマックスの無門と宿敵・下山平兵衛(鈴木亮平)が対峙する場面は、男と男の魂のぶつかり合いが、時代・世代を問わない普遍的な情動を喚起する。大野と鈴木は3日間ぶっ通してスタジオで向き合い続け、互いに“戦友”と認め合う絆が形成された。もともとスタントを用意していたが、あまりにも2人の出来が良かったため、中村監督いわく「9割9分は本人たちのカットを使っている」そうだ。
大野は「10ブロック以上の殺陣があって、亮平くんとずっと向き合っていました」と説明し、「普通の会話ができないくらい次から次へと撮るから、正直しんどかったですね。距離も近いし、どちらかが間違えると当たっちゃうから、ずっと集中。でも、やってもやっても終わらないんです。『まだ5ブロック!?』とか思っていました」と苦笑交じりに吐露。取り巻く知念侑李、伊勢谷友介、マキタスポーツらも、3日間立ちっぱなしでその戦闘を見守っていたというから、いかに労力を費やしたシーンかがうかがい知れる。
さらに、無門がお国をさらう場面の撮影スタジオでは、ある“事件”が起こった。たまたま別作品のために来ていた「嵐」二宮和也が、現場に紛れ込んでいたという。「僕は監督に横から演出をしてもらっていました。真剣に『はい、はい』と聞いていたら、僕と監督の真ん中にもう1人いたんです。助監督かなと思っていたら、『おい』と言われて、そこで初めてニノだと気づいた。台本の読み合わせか何かで来ていて、顔を出したそうです。びっくりしましたよ、あれは。一瞬わけがわからなくなって、現場を間違えたのかと思いました(笑)」
信雄役に扮した事務所の後輩・知念とも、念願の共演を果たした。劇中は敵対関係だったが、大野は知念の新たな一面を発見し、胸にこみ上げるものを確かめた。「彼とちゃんと芝居したのは初めてで。今まで見てきた侑李は、ニコニコして元気に挨拶しているイメージでした。だから感情的になるシーンは、泣き顔も見たことがなかったから、全部が新鮮でした。怒っている顔も初めて見たんです。しかも台本を読むと、侑李はずっと怒鳴っている。信雄が、ただの強がっているだけの子どもではなく、愛おしく思えたのは、侑李がそれだけ真剣だったからでしょう。感動しました。NGも出さなかったのですごい! 僕は1回、NGを出しましたけど(笑)」と褒めちぎった。
2016年7~9月に行われた撮影は暑さが厳しく、苛烈を極めた。当然、主演として出ずっぱりだった大野も、精神・肉体ともに疲弊しきっていたはず。しかし共演の立川談春や中村監督は、現場の大野がそんな苦労を一切にじませず、無門と同じく“ほとんど悟りの境地”で撮影をけん引する姿に、ド肝を抜かれたそうだ。やはりこの男、力が抜けているように見えて、底が知れない。