エリザのためにのレビュー・感想・評価
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やさしくない社会のダイナミズム
外国での生活が長かった人、帰国子女の来歴をもつ人が、しばしば、日本人の習俗を、揶揄するのを見たり聞いたりすることがある。
論調はほぼ一律で、平和ボケで、のほほんと生きていることを、あざけっている。
耳に痛い反面、よけいなお世話だとも思う。
ただ日本しか知らないじぶんも、かれらが、どうしてその手のことを言いたくなるかは、想像が付く。
社会が不安定な国の映画には、その緊張があらわれる。
それは、映画技術であらわせない。
どうしても絵にへばりついてしまう、ダイナミズムであり、ことなる国の観衆に、いやおうなしに、じぶんの生きる世界との比較をさせる空気感である。
自然に帯びるそれに加えて、映画がうまいなら、なおさら圧倒される。
たとえば、
アンドレイズビャギンツェフ
アスガーファルハディ
ヌリビルゲジェイラン
いずれも先進な国家で社会が不安定というもの失礼だが、日本に比べてしまうならロシア~ヨーロッパは依存や他助が身を滅ぼす非情な世界であろうと思う。
その緊張がかれらの映画にはある。
韓国映画にもその種の緊張がある。
良識があるなら、外国体験のない日本人とて、じぶんたちが比較的甘い世界の住人であることは、知っているはずだ。
抑圧されてきた小国。チャウシェスクのルーマニア。クリスティアンムンジウの映画にもその緊張がある。4月3週2日のような、ひりひりする社会主義の爪痕がこの映画にもあった。
主人公は、不倫も不正もするが、誤解をおそれずに言えば、それをする妥当性が感じられる。真摯な父親だと思う。
父親は娘が留学試験を通って、不安定な小国を抜け出し、民主主義のもとで学び、幸福になってくれることを、切望している。
娘の揺らぐ気持ちを懐柔しようとして、父親はこんなことを言う。
「ロンドンの公園に行くとね、緑のなかからリスたちが寄ってくるんだ、おとぎばなしみたいでほっぺたをつねりたくなるぞ」
自国に対する諦めと一縷の望みである娘の幸福。民主化のために闘争をつづけてきた彼にとって、外国は夢のような国なのである。
娘と母も、それぞれの立場と、気持ちがわかる卓越した演出だった。
すなわち、帰国子女の論調は、そのまま外国映画と日本映画の対比に流用できる。
これだけ理知なペーソスを描ける映画監督が日本にいるんだろうか──と、毎度ながら反面してみると、わたしたちが平和ボケで、のほほんと生きているとの見解は、はいそのとおりだと思いますとしか言いようがない。
順当
イギリス留学を控える娘エリザを持つ医師のロメオ。ある朝、登校途中に暴漢に襲われたエリザは、留学を決める最終試験にも影響を及ぼすほど大きく動揺してしまっている。そんな娘の試験合格のため、ある条件と引き換えに温情を与えてもらおうと、ロメオは、警察署長、副市長、試験監督など、ツテをたよりに奔走する。そんな父に娘は反発し、ロメオには検事官の捜査の手が迫ってきていた。
結局エリザは自分の力だけで試験を乗り切って卒業する。
自分のことは自分で決めることを決めていた。
理想と現実の狭間で迷う辛さ
気がついたら、(自分自身ではなく)自分の家族の為に理想を忘れてしまっている自分がいることに行き当たることってあるよな。本当に愕然とする。どう軌道修正するか出来るかが問われるんだよね。とても大変だけどね。
父親として出来ることの全て
娘の大学入学のために奔走する父親の話
音楽も少なく、主人公に寄ったカメラワークで臨場感あふれる作品だった。
娘のためにあらゆるコネを使って大学に入れようと頑張る父親、何とも健気な父ではないか。と鑑賞前は思っていたのだが、父親である主人公は不倫していて全然いい父じゃない。
夫婦間は冷め切り家庭もあまりいい環境ではない、娘の将来のためと言っているが自分の事ばかりで娘の意見を尊重しない。
見ていて全く応援できないする気になれない。
娘の事件に対する怒り、チャンスを棒に振りたくない気持ちはわかる。
だが、父として正しい行いをしているにしても、不正や不倫をしている姿は決して尊敬できる男ではないのだ。
この映画の面白い所は、尊敬は出来ないがもし自分が同じ立場なら同じ事をしただろうと共感てしまうことだ。
このアンバランス感、正義と悪の狭間がまさに現実社会だなと思った。人間はわがままで自分勝手なのだと思った。
娘もいい子なのだが、物語が進むにつれてあまり信用できなくなってくる。
「もう大人だろ」と言いながもら知らず知らずのうちに束縛してしまい、選択の自由を奪っているので、本当は大学に行きたくなくて狂言なのではないかと疑ってしまう。
疑惑があっても娘を信じて奔走する主人公。真実がどこいあるのかもわからないし、不正は行われるしで映画全体の不安定感がなんとも言えないトーンで進む。
この不安定で気の休まらない感覚は新鮮だった。
終盤、容疑者を追いかける場面もよかった。闘志満々で尾行したものの、自分が全くの丸腰でなんの強みも無い事に気づき、夜の街でどこから誰が出てくるかわからない心もとなさ、犬の鳴き声や足音だけで不安と恐怖がここまで表せるのかと驚かされた。
主人公には最期、然るべき報いがまっている、当然の結果なだけに同情はできない。ただ共感はできる展開なのですっきりはしないもののいい映画だなとは思った。
面白いかと聞かれれば返答に困るが、高い評価は納得の作品だと思う。監督の技量も俳優の実力もしっかりしているので完成度はとても高いと感じた。
劇中セリフより
「自分で決めたならそれでいい」
親として守る事、導くことは当たり前だが、自由な意思を与えるのも親の義務
束縛し過ぎないようにでも悪い道に行かぬ様にするのはとっても難しい事なのだなと感じた。
もしも親になった時は、子に自分の理想を押し付けて過ぎて窒息させないようにしようと思った。
おっさんの自己満足
娘のためにといいながら、自己満足でしかない行動に終始する男だが、
妻に愛想をつかされ、娘も自立するべく父の干渉を拒否し、私としては
後味さわやかに思いました。てめーの思いどうりになんかなるかいよという気持ちです。
ルーマニアの文化・国の成り立ち、現状を全く知りません。
鑑賞後にルーマニアがどの位置にあるのか世界地図で確認して、
なるほどここにあるねんなと思う体たらくです。
単語の1つもわからない言葉ながら、興味深く見ました。
エリザの彼氏がかっこよかったです。
おばあちゃんが瓶づめをたくさん息子に持たせる感じが、
せつないなーとか思いました。
あの腹の出っ張った50男の何処がよくて、不倫してたんでしょうね、彼女は。
ルーマニアは本当に、映画で描かれていたような、コネとワイロが
世渡りの秘訣って感じの社会なのでしょうかね。
主人公夫婦は冷戦終結の頃に帰国したっぽいことをゆっていました。
祖国がよい方向に変わると信じて帰国したけど、そうはならなかったことに
夫は失望し、できのよい娘にはケンブリッジへいって自分の果たせなかった
幸せを謳歌して欲しいと願っている。
迷惑な願いではないと思いますが、本人が望んでいないことを
押し付けていたならば、それは親のエゴですから。
親子の世界の鬱陶しさ、身勝手な男のあるあるに万国共通のテーマを、
ルーマニアの生活・しきたり等に知らない世界をのぞく好奇心を
感じました。
が、ちょっと中だるみで飽きたってのと、
主人公が暗がりをあるくシーンが怖すぎて、はらはらしたので☆3です。
秘めた残酷
衝撃的で残酷で絶望的な作風のムンジウ監督作品の中ではいたって普通っぽい印象を受けるがそれが罠。父娘のホームドラマに隠れた奥ゆかしい残酷にじわじわ気づく割と強烈な社会派映画でした。
それに加えてすべての登場人物が魅力的で、語らぬバックボーンに空想が広がります。一皮むけた印象さえ受ける良作。
劇中「サウルの息子」を思い出す音楽と演出にも出会えて、垢抜けた印象も受けますね。
かなりいいです。
確信犯=それが正しいことと信じて犯す罪
親が子に対して言う「あなたのため」の落とし穴。親から子への愛が、親のエゴの押しつけに変わり、その独善的な正義に気づかない「誠実」さ。
人は主人公のことを「誠実な人」と語る。しかしその誠実な人が、小さなきっかけ(それさえも自分自身では正義感ゆえ)で倫理を外れていく。根回し、収賄。それらすべてが「エリザのため」というエクスキューズで許されると男は信じ込んでしまう。誠実な人の正義が大いに揺らぐ様を、物語はしっかりと凝視する。その人間観察の鋭さに感服。
カメラワークはひたすらに主人公の背後に立ち、彼の背中を追いかけ続ける。全てのシーンが主人公の一人称で切り取られていく。それはまるで、彼の視点で物語を見るようにも見えるが、しかし観客は客観的な目でそのカメラを見つめる。主人公の主観を、観客は客観的に見据えるようなカメラの位置。主人公は自らの主観でものを見る。だからこそ時に冷静さを欠き、判断を誤り、大事なものを見落としてしまう。そしてその様子を観客は客観的に見据えるため、それらに気づいていく。気づかないのは主人公だけ。この主体と客体、主観と客観を巧みに操ったようなカメラワークは容易く真似できる技ではない。
それでいて、物語は主人公を安易に糾弾したりなどしない。誰でもが陥りかねない小さな罪の背徳の積み重ねを冷静沈着に理路整然と描き出す。人間が、自分は正しいと思い込んだまま静かに着実に道を外していく様子に、思わず自らを戒めたくなる。ルールを守らない子に石を投げた少年と、石を投げてはならない理由を説明しない男。こういう巧みな構図が、映画の随所に散らばっていて、ひとつひとつが効いてくる。
こういう映画は、やっぱりヨーロッパが強い。勧善懲悪が得意なハリウッドなら最終的に主人公に罰を与えるだろう。しかしそれをしないところに、ムンジル監督の人間のありのままを濁りない目でしっかりと見つめる感性の鋭さを感じる。
え?
絶賛と酷評と、レートが3.0、微妙な期待で退屈にも負けずに観たけど、共感できなすぎ。医者なのに不節制でデップリ太ってるのはヨーロッパではあるある?
娘とベッタリだったり、彼氏に文句つけたり、医者ってそんなに暇?
散らかしっぱなしで回収されないエピソードとか、違和感しかなくて、カンヌ映画祭の受賞作品に惹かれたしくじりを悔やみながら、帰途に着きました(´Д` )。
強烈なアイロニー
決してルーマニアの社会というものに精通しているわけではないけれど、現状に対する社会的批判を盛り込んだ作品だということは容易に察知できる。
現実社会に幻滅し、そこから逃れようと幻滅した社会を食い物にして、再び社会に対して汚物を作り出し、それが巡り巡って自らに跳ね返ってくるという現状を見事に描いている。
特に脚本と音の使い方が効果的だったように思う。説明的なところは一切なく、自然な会話などで構成されていたにもかかわらず、展開や背景まで非常に明瞭に理解できた。決して単純な話ではないだけに、この伝達能力の凄さには感服してしまう。
そして、電話、携帯、乗り物の騒音、足音、人々の声などで見ている側を心理的に追い詰めて、ある種の緊張感を増しているような印象を持った。特に電話や携帯の音がやたら気になったし、非常に不可解に思ったし、それらが見事なまでに負の社会情勢へと繋がっていたように思えた。
最後のセリフなど思わず笑ってしまうというか呆れてしまうというか哀しいというか、とにかく秀逸だ。
これは決してヨーロッパの片田舎の話などではないなという思いで見ていた。
決して楽しい作品ではないけれど、スゴイ作品であることは間違いない。人によっては終始笑える作品かもしれない。
すばらしかった
なぜ主人公が医者なのか。なぜ彼の友人が警官なのか。そういった「セリフで語られない面」に目を向けると、彼らの苦悩と戦いの歴史が垣間見え、やるせなくなる。そういった「語られない面」の置き方が、この脚本は実にすばらしかったと思う。彼が林の中、ひとり泣いてしまったその時に、わたしはふかく彼に心を捕らえられてしまった。あのとき、彼はどんなに悔しかったことだろう。
「ダメなことはダメなんだ」「どうして?」「お母さんが教えてくれる」ここで自分が思う正しさを少年に語らないところに、主人公のどうしようもなく実直な面が現れていると思う。やったことの是非はともかくとして、彼の根本は優しく、賢く、そして真摯なのである。
最後「わたし、上手くやったでしょ」と娘が笑ったそのときに、ああ、主人公が彼女に教えてきたことは、きちんと彼女の中に根付いているんだなあと、しみじみ感慨深くなった。彼女は自分で正しさを選び、そのうえ「上手くやること」すらも、自分で物にしたのである。そしてそれはまさに、主人公が戦い、負け、屈辱にまみれた痛みと共に、彼女に伝えてきたことなのだ。
親バカかバカ親か
悪い人間ではないのだけれど、とにかく自分に甘いし娘のことが心配で堪らない親父。
大切な試験を翌日に控えた娘が暴漢に襲われ、精神的に不安定な情態で試験に臨むことになり、娘の為に良かれと思い、試験で手心を加えて貰おうと動く父親。誰も頼んでないし誰も得しないし1人でバタバタ。
結局娘が自分で頑張っただけだし、色々と広げた話は回収されないし、何がみせたいのか良くわからなかった。
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