劇場公開日 2017年1月28日

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「やさしくない社会のダイナミズム」エリザのために 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

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4.0やさしくない社会のダイナミズム

津次郎さん
2020年7月11日
PCから投稿

外国での生活が長かった人、帰国子女の来歴をもつ人が、しばしば、日本人の習俗を、揶揄するのを見たり聞いたりすることがある。

論調はほぼ一律で、平和ボケで、のほほんと生きていることを、あざけっている。

耳に痛い反面、よけいなお世話だとも思う。

ただ日本しか知らないじぶんも、かれらが、どうしてその手のことを言いたくなるかは、想像が付く。

社会が不安定な国の映画には、その緊張があらわれる。

それは、映画技術であらわせない。
どうしても絵にへばりついてしまう、ダイナミズムであり、ことなる国の観衆に、いやおうなしに、じぶんの生きる世界との比較をさせる空気感である。

自然に帯びるそれに加えて、映画がうまいなら、なおさら圧倒される。

たとえば、
アンドレイズビャギンツェフ
アスガーファルハディ
ヌリビルゲジェイラン

いずれも先進な国家で社会が不安定というもの失礼だが、日本に比べてしまうならロシア~ヨーロッパは依存や他助が身を滅ぼす非情な世界であろうと思う。
その緊張がかれらの映画にはある。
韓国映画にもその種の緊張がある。

良識があるなら、外国体験のない日本人とて、じぶんたちが比較的甘い世界の住人であることは、知っているはずだ。

抑圧されてきた小国。チャウシェスクのルーマニア。クリスティアンムンジウの映画にもその緊張がある。4月3週2日のような、ひりひりする社会主義の爪痕がこの映画にもあった。

主人公は、不倫も不正もするが、誤解をおそれずに言えば、それをする妥当性が感じられる。真摯な父親だと思う。
父親は娘が留学試験を通って、不安定な小国を抜け出し、民主主義のもとで学び、幸福になってくれることを、切望している。
娘の揺らぐ気持ちを懐柔しようとして、父親はこんなことを言う。
「ロンドンの公園に行くとね、緑のなかからリスたちが寄ってくるんだ、おとぎばなしみたいでほっぺたをつねりたくなるぞ」
自国に対する諦めと一縷の望みである娘の幸福。民主化のために闘争をつづけてきた彼にとって、外国は夢のような国なのである。
娘と母も、それぞれの立場と、気持ちがわかる卓越した演出だった。

すなわち、帰国子女の論調は、そのまま外国映画と日本映画の対比に流用できる。
これだけ理知なペーソスを描ける映画監督が日本にいるんだろうか──と、毎度ながら反面してみると、わたしたちが平和ボケで、のほほんと生きているとの見解は、はいそのとおりだと思いますとしか言いようがない。

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津次郎
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