「頭をカラにして観る」アベンジャーズ エンドゲーム 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
頭をカラにして観る
キャプテン・アメリカがラストシーンで発した「Assemble」という台詞が結局この作品のすべてである。もちろんパソコン用語ではなく、ヒーローがみんな集まったという意味だ。要するに力を合わせれば勝てるみたいなアホくささである。こういう単細胞ぶりがディズニーの真骨頂だ。
各シリーズを見ていないとよくわからないところはあるが、前作の「キャプテン・マーベル」を見ていたので、キャプテン・マーベルだけは全宇宙の正義の味方で忙しいことはわかった。それに対してアベンジャーズ軍団はもっぱら地球での戦いに専念する。宇宙担当はキャプテン・マーベルだけで、地球以外での悪との戦いがどうなっているのかは不明のままだ。
プレイステーションで「天誅」というタイトルのゲームがある。クリアすると言語を選べるようになっていて、英語を選ぶと「avenge」という単語が何度か出てくる。「仇を打つ」という意味の単語だが、日本語の読み方で「あだ」と「かたき」では若干意味が異なる。「恩を仇で返す」というときは「あだ」と読む。親を殺した相手は「親のかたき」である。avengeもrevengeも恨みのある相手をやっつけようとする点では意味はあまり変わらない。アベンジャーズがavengeするためには、被害に遭うのを待たねばならない。先手を打ってやっつけたらavengeにならないからだ。
そして被害に遭うためには加害者が必要で、例によって典型的な加害者が登場する。鼻持ちならないプライドの持ち主で、自分のプライドのためだけに他者を傷つけても意に介さない、家族愛も何も持ち合わせていない冷血タイプである。子供が観るからわかりやすくする必要があったのだろうが、大人が見ると悪役としてのリアリティに欠けている。悪役にも葛藤はあるし、心の拠り所も必要だ。悪役の手下たちにも同様のことが言えるが、そんなことはお構いなしで、画一的な手下が次々に殺される。
ただCGと音は相当の迫力で、この作品ばかりはIMAXの3Dで観てよかったと思う。アホな世界観はいったん横に置いて、アクション主体の映像と音楽を楽しむにはとてもいい作品である。それにしてもロバート・ダウニー・ジュニアは麻薬で逮捕されたりしているのに、ディズニー映画に主役として出ているのは、流石にアメリカは作品と俳優を区別するだけの分別を持ち合わせている国である。自分と違う人格をリアルに演じるのは精神的負担が大きい。覚せい剤でキメセクをやっている連中は別として、俳優が薬物やアルコールに依存し勝ちになるのは必然だろう。特に一匹狼タイプの俳優はそうなりやすい気がする。
ダウニー・ジュニアをはじめとして、俳優陣の演技は相変わらず見事である。ロバート・レッドフォードが出ているのはしっかり見たが、ナタリー・ポートマンの名前をクレジットに発見して驚いた。これだけの俳優たちがディズニーみたいなありきたりの世界観のお手軽映画に出るのはなんとももったいない気がするが、これも「Assemble」だ。集合したら外側だけを見ることしかできなくなり、内面を掘り下げるのは無理である。演じるほうも観るほうも、頭をカラにして作品を楽しむのがいい。3時間はまったく長く感じなかった。