「故郷はガネストレイ」LION ライオン 25年目のただいま 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
故郷はガネストレイ
これまた「まる見え」か「仰天ニュース」か「アンビリバボー」で紹介されそうな“事実は小説より奇なり”。
幼い頃インドで迷子になった少年。
やがてオーストラリア人夫婦の養子になり、成長して自分の本当の家族を探し出す。
それに用いた方法は、グーグルアース!
…ところが、ひねくれ者の私は序盤、迷子になったのはこの少年・サルーの自分のせいじゃないか、と思ってしまった。
無理言って兄ちゃんの夜の仕事に付いて行って、案の定お眠。動くなと言われたのに回送列車に乗って、遠い地へ…。
サルーの境遇には同情するが、誰よりも心配したであろう兄ちゃんや実母を思うと胸が痛い。
迷子になってからはサルーの目線で。
こうなるとさすが実話ならではの魅力、話に吸い込まれる。あっという間に終わって、長さを全く感じなかった。
遠い地の駅のホームで幼い子供を邪険にする大人たち。
親切にしてくれたと思った女の人は実は…。
誰か一人、警察に連れてってくれる人は居ないのか。
…いや、それは、治安のいい日本だからの考え。
その国の迷子事情を突く。
やっと親切な人に助けられ、警察に連れてってくれて、やはりと言うか結局施設へ。
そこでオーストラリア人夫婦の養子になる。
何故このジョンとスーの夫妻が自分を養子に迎えてくれたのかは分からない。
きっと、何かの縁。不幸中の幸いとでも言うべき巡り合わせ。
この優しい夫妻の下で何不自由無く暮らす。
たっぷりの愛情注がれ、“ガネストレイ”で暮らしてたら絶対出来ないような贅沢、教養、そしてルーニー・マーラみたいな娘と付き合う。
サルーは引き取られた時、ヤだ!ヤだ!とか、本当のパパママじゃない!とか、本当のパパママに逢いたい!とか、泣き喚いたりしない。
幼いながらに、もう諦め、受け入れたのだろう。悲劇から始まった、この新しい人生を生きる、と。
きっかけは、揚げ菓子だった。
幼い頃の記憶が蘇る。
そしてその思いは日に日に強くなる。
昔に諦めた筈だった。
本当の家族に逢いたい。
逢って、今自分が無事だという事を伝えたい。
同時に、胸が苦しくなる。
育ててくれた両親を裏切る事になるかもしれない。
今、自分は幸せだ。が、本当の家族は今も自分を探しているかもしれない。
今の自分だけが恵まれた人生が何もかも嫌になる。
実話なので結末は分かる。
25年越しの再会。
エンディングのあの実録映像は卑怯だよ! 感動しない訳がないじゃないか!
その感動の再会を可能にしたグーグルアースがスゲェ…!
今や世界中何処でも探す事が出来る。
どんどん便利になっていく世の中。それが一人の人生の力になり、ハイテクも悪いもんじゃない。
確かにちょっと出来すぎかもしれない。パソコン上で、うろ覚えの記憶で探し出せるものか。
しかし時として、人の記憶力は常識じゃ計り知れない。
幼い頃目に焼き付け、肌で感じ、心に刻まれた記憶は、そう忘れるもんじゃない。
青年サルーのデヴ・パテルは本当に立派な青年に成長したもんだ。こうして見ると、なかなかのイケメンだし。
ニコール・キッドマンも育ての母で母性たっぷり。
幼いサルー役の男の子もキュート。
一向に触れられないタイトルの“ライオン”。ライオンなんて何処に出てたっけ? どういう意味?…最後の最後になって、なるほど、そういう事か!
一人の少年の軌跡であり、親子の物語であり、兄弟愛の話でもある。
幼い頃、常に兄ちゃんの後を付いていた。優しかった兄ちゃん。
引き取られて一年後、もう一人養子の男の子が。血は繋がっていないが、弟。
しかし、この弟とは確執が。
が、自分の実の兄ちゃんだったらどんな時も弟の味方。
今は自分が兄ちゃんとして弟を守る。
サルーは幸運にも本当の家族と再会出来た。
サルーと同じようにインドで迷子になった子は多いとか。
再会も出来ず、そのままのたれ死んだ子も少なくないだろう。
本当にこれは、数少ない奇跡の物語。
評判通りの感動良作。
しかし、プロデューサーの名を見ると、ガッカリする。
だって、今ハリウッドで大問題渦中のアノ人…。