母の残像 : 映画評論・批評

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母の残像

劇場公開日 2016年11月26日
2016年11月8日更新 2016年11月26日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

家族とは何か?母親の死から派生する物語が提示する家族の概念

戦場カメラマンとして世界中を行脚し、必然的に留守がちだった母親が、ある日突然、交通事故で旅立ってしまう。それから3年後、残された夫と2人の息子の日常に寄り添うカメラは、各々の方法で悲しみを消化しようとしてもし切れない、男たちの無様な様子を静かなタッチで炙り出していく。

かつて、家族との時間を優先するために俳優業を畳み、教師に転職したはずの父親は、独り身の淋しさを安易な手段で満たしている。勉学優秀で早くから家を出た長男は、久々に戻った実家で時間の空白を埋めるのに苦慮しているし、誰よりも繊細な次男は、父親との会話を頑なに遮断して、大好きなゲームの世界に引き籠もったままだ。

しかし、母親の回顧展開催を機に、改めて家族が彼女の死にまつわる疑惑に向き合おうとした時、実は母親自身も、安らぐべき我が家に自分の居場所を探しあぐねていたことがさりげなく明かされる。家族とはそもそも、個々が感じる距離感と温度差が混じり合う場所。1人の死から派生する物語が提示する家族の概念は、肌触りは冷たいけれど、ひしひしと身に染みて説得力がある。

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やがて、父親は自らの不始末を精算し、長男は空白の時間から本来の自分があるべき姿を発見する。そして、問題児だった次男は、苦闘の果てに、ようやく、空想の世界で愛しい母の残像と心置きなく寄り添える術を見出す。家族とはそれでも、忘れがたい記憶と共に永遠に続く時間の集合体。それもまた、紛れもない真実なのだ。

ラース・フォン・トリアーを叔父に持つ監督が初の英語脚本、アメリカでの撮影に挑戦した本作のために集められた俳優陣の中で、イザベル・ユペールの存在感が傑出している。特に、シミやソバカス、皺を隠そうともせず、否むしろ、堂々と晒しながら、じっとこちら側を凝視する美しい顔のクローズアップは、家族の思い出の中でのみ躍動する母親の溢れる感情を表現して余りあるものだし、同時に、発信源としての映画の可能性をも象徴しているかのよう。「私を見て! 映画を見て!!」少し充血した眼の奥から、そんなユペールの叫びが聞こえてきそうだ。

清藤秀人

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