「香子の気持ちの落ち着くところ」3月のライオン 後編 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
香子の気持ちの落ち着くところ
三月のライオン後編です。
後編のポイントは三つです。
香子をどう描くか。
ひなちゃんといじめの話がどうなるか。
妻子捨男がどうなるか。
原作の三月のライオンで、一番、私自身の問題だと思って読んできたのがいじめの話です。
ひなちゃんの戦いが美しいということもさておき、
いじめた子供をどう受け入れるか、大人がすべきことは何かということに踏み込んでいるところが好きなんです。
後は、ちほちゃんがいじめを受けた苦しみからどう立ち上がるのか、や、傍観者の贖罪(ちょっとだけですけどね)についても、扱っているところが好きなんです。
映画の中では、尺の問題なのでしょうね、
さらっとなぞったという印象になってしまいそこはちょっと残念でした。ちほちゃん瞬間しかでてこやんし。
大体、このいじめ問題を含めるならば、妻子捨男は入れられないはずなのに、いれるってことは、若干無理が見えるんだろうなという予想はあったので、ある意味予想通りの仕上がりですね。
ひなちゃんが川辺でなくシーン、教室で戦うシーンあたりまでは、涙で画面が見にくいくらいでした。
あんなひどいいじめをどうして見て見ぬふりできるのだ、という、傍観者への怒りです。なぜ、ちほちゃんに、ひなちゃんに、寄り添わないんだ、こいつらは!と。
そして、自分は絶対にいじめの傍観者にならない、孤立したってひなちゃんの側に立って戦うんだという決意を新たにしました。
それが私がいじめられた時に、誰かにやってほしいことだから。
加害者にならないよう、自分を鍛えるということももちろんですが、傍観者としていることで、より被害者をいじめることに加担してしまう卑怯を、自分がやりたくないんです。
映画に直接関係ないですが、いじめは子供たちの問題として語る大人が、卑怯だなと思います。
子供は大人が、大人の世界で醜いいじめをしているのを見て、
自分がいじめられたから、より弱い(と勝手に決めている)誰かをいじめているんです。
いじめている子はいじめられたからいじめることを知るんです。
形は違うかもしれません。でも、いじめを見たから、いじめることで憂さを晴らすということを知るんです。
大人がこの醜い行動を教えてしまっているんだ、その情けなさをもっともっと自覚しろよと思います。
学校という別世界だから俯瞰できるだけで、社会という現実でのいじめは、ほとんどの大人は傍観者として、観ないふりをしている。そして、見えない加害者になっている。私も含めてですが、そのことを自覚して、人をいじめなくて済むように自分を鍛えなくてはいけないと思います。
この件はきりがない話ですし、この辺で映画に話を戻します。
加害者、傍観者の描き方が甘いというあたりから、
だんだん涙は乾き、ちょっと、うーん、なんだかなーと思いながら見ました。
そして、妻子捨男編ですが、ちょっとこれは、きついわーと思いました。
妻子捨男の造形もあんまりはまってないと思ったのと、
零が、妻子捨男をなじるシーンで、なじり方を間違えて、
川本姉妹を傷つけるという流れが、零はこんな過ち犯しませんよ?と思いましてね。残念でした。
あと、川本姉妹の自らの父との決別もものたりねーよーと思いました。
なので、いじめ問題もチョイ不満、妻子捨男はまったくもって不満となりました。
最後、香子です。
香子の部分は、原作にないところです。
まだ、原作の香子は気持ちの持っていきどころが解らず、
零に八つ当たりしたまま立ち止まっています。
漫画を読んでいて、香子に対して同情する部分もあるのですが、
香子の挫折は父のせいでも零のせいでもないのに、そこに矛先を向けていてはいつまでも変わらないよと、ちょっと呆れ気味に読んでいたのです。
で、そこん所を結論付けてくれた。その手法がとっても良かったのが、後編の評価をググッとあげました。
具体的には、香子が将棋に挫折したのは、香子自身が自分を信じていなかったからだよ、だから零に、自分に負けたんだよと、
父親に将棋の試合運びと結果を通じて告げられたんですね。
そこがね、よかった。香子が気付けるツールとして、ばっちりだったねーと思いました。
後藤の奥さんは亡くなり、後藤は香子を遠ざけ、香子はさらに孤独を深めていたわけです。さらに父と零と将棋を恨んだ。
でも、愛しても届かないと思っていた父に、諭され、後藤のところへ向かうんですね。やっと自分を愛しながら、先に進める気持ちになれた香子に、がんばれっていう気持ちになりました。
前編と比べ、島田さん、二階堂はあまり活躍しません。
棋士では宗谷と後藤と零がメインです。
なんと、零は後藤に勝ち(まだ原作では勝ってない!!!)、
宗谷とタイトル戦を争うところまで来て、終わります。
そして、零もひとつの結論を見つけます。
好きでもないのに将棋しかないからくらいついてきた、
という自認から、やっぱり将棋が好きなんだ、というところへと。
そこの流れはあっさりなので、もちょっと踏み込んでほしかったんですが、まあ、よかったとしておきましょう。
予想通りですが、将棋科学部ネタ(野口先輩…)、柳原さん、土橋さんあたりは出てきませんでした。
その代り、原作ではほとんど出てこない歩くんが出てきました。
香子の弟です。歩くんエピソードも割とよかったです。
あと、セリフには出てきませんが、ちゃんと老犬っぽいタロウ(だったかな名前)が出ていたことがうれしかったです。
総括しますとね、まあ後半は負け戦確定かってところから、
香子エピで大逆転って感じでした。
お疲れ様でしたよ、皆様って感じです(えらそうにすみません)。
いじめ編と妻子捨男編は、本来それだけで映画一本できる題材なので、仕方ないです。