「自分と闘う中で成長する登場人物の姿にじわっと来る熱い感動」3月のライオン 後編 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
自分と闘う中で成長する登場人物の姿にじわっと来る熱い感動
主人公は勿論だが、登場人物が皆、大きな障害を乗り越えて、成長する物語である。年齢や立場に関わらず見終わった人間も少し成長を感じさせる、じわっと大きな感動が来る珠玉の映画であった。
本物のプロフェッショナルを目指す方々に、夢中になれるもの愛するものを探している多くの若人に、そして何よりも、真摯な心の繋がりを求める多くの方々に、是非、見て欲しい映画だと思った。
この映画は、そういった方々のために、丁寧に真面目に、そして強い情熱で素晴らしい技術により作られた映画だと思えた。
大きな壁をぶち破り、自己を客観的に見れるまで成長した神木隆之介演ずる零君は、三姉妹に助けようとした自分こそ助けられたことを話す。生きる為に将棋を始めた訳だが、終わりの方では、「将棋が好きか?」に心の底から頷ける(その吹っ切れたような神木君の笑顔が素敵だ)まで成長し、その力強い神々しい姿に感動して、涙が溢れた。
もう一人の主人公であり将棋を呪っていた有村架純演ずる孤独な香子も、父の言葉に呪縛を解かれる。そう、持ち前の勝気さを生かし、自ら幸せをゲットしに行くのだ。そして、きちんと対面せず子供達を壊しかけた幸田父こそ、最終的に人間として最も成長した一人であった。それを抑えた演技で表現した豊川悦司が実に素晴らしかった。
妻の死にトイレ内で悶え苦しみながらも、対局ではそれを完全に押さえ込み、且つ眼差しの強さでA級トップ棋士の後藤を具現化した伊藤英明は、実に素晴らしかった。勝利を確信し涙を抑えられなくなる零に泣くなと諭す脚本構成も秀逸であった。そして、後藤のはるか上をいく棋界のトップとして君臨し、零の未来を暗示する宗谷冬司を演ずる加瀬亮も、難聴を克服し、静逸さと異常とも思える集中力と将棋そのものを真から楽しむ姿で、本当の偉大なる強さを体現し、見事であった。
いじめに立ち向かう決意を話せるひなた(清原果耶)、そして実の父に平手打ちをするあかり(倉科カナ)と、それを決意を込めた眼差しで見つめるモモ(新津ちせ)も、痛みを伴いながらも素晴らしく成長(私は駄目ねと、零にぼやいていたエピソードが実に効果的)した姿を見せる。彼女らの凛々しい姿に、とても感動させられる。きっと、 叩かれた実父の征次郎もショックだったろうが、きっと立ち直るだろう、それを暗示する本質的人の良さを滲み出した伊勢谷友助の演技もとても知的で、大成功であった。
原作の愛読者としては、エピソードの取捨選択や未知の展開に、当初、若干の戸惑いもあった。しかし、映画全体として、この映画は、命懸けで自分の弱さと闘う羽海野チカが描く世界の本質的精神を、丁寧に敬意を表するかたちで、見事に描き切っていた。
大きな感動をくれた製作関係者に拍手、拍手、拍手!