「ほつれた糸は一気に燃える」バーニング・オーシャン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
ほつれた糸は一気に燃える
『キングダム/見えざる敵』のピーター・バーグ監督が、
『ローン・サバイバー』でも主演で起用した
マーク・ウォールバーグと再タッグを組んだパニック大作。
2010年にメキシコ湾の石油掘削施設『ディープ・ウォーター・
ホライズン』で発生した大規模炎上・石油流出事故を描く。
マイケル・ベイ風の迷作『バトルシップ』はさておき(笑)、
実話や実話性の高い物語が得意な印象のこの監督さんだが、
個人的に本作は、今までの同監督作品中でも最も面白かった。
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作品評価に関わるので少しだけ自分の仕事について書くが、
自分は工業製品の品質保証の仕事をやっている。
簡単に言えば「製品を長年使ったり妙な使い方を
しても、燃えたり煙吹いたりとんでもない事故
なんて起こさないよね?」を確認する仕事である。
映画の前半、検査がああだこうだと話し合っている流れは、
全編に渡って爆発満載!パニック満載!のド迫力
ディザスター映画を期待されていた方にはもしかすると
肩透かしに感じたかもだが、自分の立場からすれば
あのパートは後半と同レベルの恐るべき悪夢だった。
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納期第一、利益第一、安全については二の次三の次。
数字にしか興味を持たず現場の安全性を軽視した
大企業経営の恐ろしさがまざまざと描かれるのが前半だ。
設備の老朽化は分かっているのに修理の予算が下りない。
安全のために検査をと訴えても二言目には日程遅延と予算の話。
誰かに何か聞けば「連絡が来てない」「俺の仕事じゃない」
で、関係者間のコミュニケーションもまるで取れてない。
(積極的に情報を取りに行かない作業員も悪いが、
そもそも船内通信は壊れてたし、上役も進んで
情報を出さないようにしていたのかもと思う)
恐るべきはジョン・マルコヴィッチ演じる上役。
石油採掘前の事前検査の結果が悪くても、もっとも
らしい理論を立てて別手法での再検査を要求。
別手法で検査の精度を高めるのは良いと思うし、
あの理論も間違っていない可能性はあるけれど、
あれは結局得たい結果を得るためにデータを都合良く
解釈しただけで、再検査は鬼(=カート・ラッセル)
の居ぬ間に都合の悪いデータには目をつぶってOKと判断、
作業員に脅迫じみた言葉をかけて勝手にGOをかける。
彼の根底にあるのは「ここはボロボロだが、少なくとも
自分がいる間に事故が起こることはないっしょ」
という「自分だけは大丈夫」思考だと思う。
あとは「俺は経営陣から言われたことをキチンと
守ってるだけ」という感覚もあったのかもしれない。
けどさ、疑わしきは罰せず、じゃ駄目じゃんよ。
疑わしきを罰するべき仕事じゃんよ、これは。
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そして全てのツケが爆発する後半は、
口をあんぐり開けてしまうほどの大パニック。
序盤で主人公の娘が語っていたように、恐竜の
亡霊が怒り任せで荒れ狂っているような地獄っぷり。
あれだけの巨大な施設がまるまる火の玉に包まれる
ほどの大爆発が現実に起こっただなんて考えるも
ゾッとするし、その後の脱出までの描写も息吐く間もない。
刻一刻と悪化する事態に必死に対処しようとする主人公たちを
リアルタイムサスペンスのようなヒリヒリしたタッチで活写。
主人公たちが心情を長々と吐露したり、死に際で誰かが
カッコいい台詞を吐いたり、そんな不自然なドラマは無い。
実直に危機に対処する主人公たちの姿がリアルだからこそ、
彼らの吐く一瞬の言葉や行動がドラマチックに胸に迫る。
娘へのプレゼントを忘れず胸ポケットへしまい、
パニック状態の仲間にバイクの話題を振る主人公。
怒りを殺して「船に乗れ」とだけ告げるベテラン。
「クレーンの向きを変えねば」の一念で多くの仲間を救った男。
避難の際は他人を励ませるほど勇敢だった主人公が、救出後、
ホテルで恐怖と安堵とに打ち震えるシーンには思わず涙が出た。
家族の無事を案じて涙する人、怒り狂う人の姿にも。
最後に流れる、生き残れなかった人々の姿にも。
下手なドラマなんて無くても、「生き残る」という
気持ちだけで、この映画は十二分にドラマチックなのだ。
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社会性の面でもエンタメ性の面でも、優れた
パニック映画だったと思います。大満足の4.0判定です。
ピーター・バーグ&マーク・ウォールバーグのコンビ作は
実話を基にしたサスペンス『パトリオット・デイ』の
公開がまたすぐに控えているが、こちらも非常に楽しみ。
<2017.04.22鑑賞>