「やりたかったことは良く分かる」若葉のころ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
やりたかったことは良く分かる
懐かしい音楽を耳にすれば、キラキラと輝いていたあの頃に戻ることができる。たとえ、現在それなりに職や家族に恵まれていたとしても、ひと時、在りし日の感情を思い出し、甘い感傷に浸ることへの誘惑から逃れることは、誰にとっても難しい。
このような郷愁が描きたかったことは強く伝わってきた。しかし、結論を言うと、若い日々の描写は成功しているのに、年老いた現在の描き方に違和感を覚える。この違和感はどこから来るのか。
ワイン片手に、高級オーディオの音に耳を傾ける二人の男。
いつかどこかで観た香港映画にもこんなシーンがあった気がする。敵同士だと互いに気付くことなく、男二人がレコードの音楽に共に耳を傾けている。そのシーンには秘められた哀愁とサスペンスが溢れていた。
こちらはどうであろうか。同じ悪友とバーで喧嘩をするシークエンスを含めて、そこには大人になり切れない中年男が描かれている。分別のある大人の男が郷愁に浸るのではなく、幼い日々から抜け出せずにいまだにわんぱく坊主の自分に酔っているのだ。
このように未成熟な男と、人生の酸いも甘いも経験して愛娘を育て上げようとしている大人の女性との間に、このあとどのようなロマンスが控えているというのか。娘の淡い期待通りに、この二人がいま再びの恋に落ちるとは考えられない。
自分が甦らせたはずの昔日の恋が色褪せていくのを、娘は自分の目で見届けることになる。彼女の思春期が終わりを告げるその瞬間まで描いてこそ、親子二代の恋物語が完結するのではなかろうか。
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