SING シング : 映画評論・批評
2017年3月14日更新
2017年3月17日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
キャラクターと歌の魅力で高揚感をもたらす、愛されミュージカル・アニメ!
アニメーションでも実写でも、ミュージカルがまたブームを巻き起こしている昨今。イルミネーション・スタジオによるこのジュークボックス・ミュージカル・アニメーションは、映画ファンのベスト10入りを狙う超強力なダークホースかもしれない。いわゆる“傑作”ではないが、観客に「“傑作”より好き!」と言わせるだけの魅力に満ちた映画なのだ。
ストーリーもキャラクターも、タイトルが示す通り単純で実に素直。自分の熱愛する劇場を経営難から失う危機にあるコアラのバスターが、再起を懸けて開催しようと企画した歌のコンテスト。そこに集結したのが窃盗パパをもつゴリラ少年や25匹の子を育てるママブタ、内気すぎるゾウら、それぞれ「なんとかしてダメな現状を打破したい」という切実な悩みを抱えた動物のキャラクターたちである。いろいろあってそれぞれがピンチを迎えるが、歌うこと、ステージへのパッションで乗り越え、大きな一歩を踏み出していく。こんな筋書きは、誰だって予測できてしまうだろう。しかし、シング=歌の魅力でこれほどまでにシビレさせ、涙が出るほどの高揚感をノリノリで味わわせてくれるとは予想外なはず!
自伝的な「リトル・ランボーズ」で映画への情熱を瑞々しく描ききったガース・ジェニングス監督が、今回は歌への、エンターテインメントへの情熱を、ものすごく素直に描き出している(やらかし屋のトカゲ老嬢秘書、ミス・クローリー役で声優の才能も発揮!)。さまざまな動物たちの共存する世界は「ズートピア」を連想させずにはおかないが、社会的な隠喩なんてここには探したって見つからない。あるのは愉快なキャラと、単純でありふれているが誰もが共感しやすいパーソナルなストーリー。笑いとやさしさもたっぷりある。
それに加えて猛烈なパワーを発揮するのが、心をガッチリ掴むヒットソングの数々なのである。きゃりーぱみゅぱみゅを含んだ選曲もいいし、「いきなり歌うミュージカルは苦手」という人も、歌うシーンで歌うだけの本作なら大丈夫。老若男女が夢中になれる。豪華な映画スターの声優陣が、こんなに素晴らしい歌唱力の持ち主だなんて嬉しすぎるじゃないか。リースやスカヨハが歌えるのは知っていたとしても、タロン・エガートンがこんなスウィート・ボイスで魅了してくれるとは。キャラクターたちの歌う喜びと、それを聴くという観客の喜びが共鳴するクライマックスのカタルシスは、そりゃもう格別なのだ。
(若林ゆり)