「まさかのトム・カーノウスキー色が全開の『スター・ウォーズ』最新作」スター・ウォーズ 最後のジェダイ kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
まさかのトム・カーノウスキー色が全開の『スター・ウォーズ』最新作
2018年の元日の深夜に“TOHOシネマズ 新宿”のスクリーン9にて、オールナイトの最終回、2D字幕、ドルビー・アトモス、TCXにて鑑賞。
世界中で愛される『スター・ウォーズ』シリーズ。2015年に『エピソード7/フォースの覚醒』から始まった“続三部作”の第2弾の『エピソード8/最後のジェダイ』が遂に公開され、『フォースの覚醒』、『ローグ・ワン』に続いて、新年に相応しい大作として観てきました。
ルーク(マーク・ハミル)を見つけることに成功したフォース感応者の少女レイ(デイジー・リドリー)はフォースを使いこなして、暗黒面の戦士カイロ・レン(アダム・ドライヴァー)とファースト・オーダー軍に立ち向かうためにルークへの弟子入りを志願するが、彼はそれを拒んでしまう。一方、秘密基地からの撤退を余儀なくされたレイア(キャリー・フィッシャー)の率いるレジスタンスは多数の犠牲者を出し、追い詰められていく(あらすじ)。
『エピソード6/ジェダイの帰還』からの30年を埋めるために、“旧三部作(エピソード4〜6)”のお復習を含めた構成にした事で謎を多く残して終わった『フォースの覚醒』の続きなのだから、監督と脚本を同作のJ.J・エイブラムスから引き継いだライアン・ジョンソンが、どのようにして描くのかが気になっていたのですが、全体的に予想を良い意味で裏切る展開が多く、個人的には『フォースの覚醒』よりも楽しめました。
「レイの両親」、「ルークの隠居」、「スノーク最高司令官の正体」等の謎が前作で気になっていたので、それを本作で知りたいと思いながらも、それをメインにしてしまうと、前作以上に世界観が小さくなるかもしれないので、何処か知りたくないという気持ちで観ました。今回も謎は殆ど明らかにならず、真実かどうかは分かりませんが、レイはスカイウォーカーの血筋とは無関係の人物だったという点しか具体的にならず、それ以外は一部を除けば、触れられる事も無く、まるで、「そんな謎あったっけ?」と思うほど、ノータッチな状態で進むのですが、見ているうちに「前作の謎が大して気にならなくなってきた」と思うようになっていて、その謎に関しては、いつか明らかになるのを期待しながら、観る側の想像に委ねれば良いという感じで作っているのではないかと思ったので、この形でも良かったという印象を持っています。
『フォースの覚醒』は好きな作品ですが、『スター・トレック(2009年)』以外のエイブラムス監督による、風呂敷を広げるだけ、広げて、それを回収していないのに、「どう?スゴい作品だったでしょ?」とアピールしているかのような作りが鼻につき、「大好き」とは言えない一作でした。行っている事は全く間違っておらず、「そう来たか」と思えるぐらいの驚きも多いので、不満は抱いておりません。しかし、本作はエイブラムス監督は製作総指揮に名を連ねていても、名義貸し(前作のように自身の製作会社“バッド・ロボット”が参加していない)に過ぎず、エイブラムス色は殆ど無い(あるとすれば、惑星クレイトの赤い塩の大地に“スター・トレック-イントゥ・ダークネス-”の冒頭の惑星を思い出させるところぐらい)という印象を抱くほど、色が変わっていて、そこが好印象で、普通は三部作の第2弾なのだから、『エピソード5/帝国の逆襲』のような色になるのが誰でも予想する筈ですが、その色を抑え、全体的に明るいトーンで進み、カント・バイトのカジノや牢屋からの脱出シーンなど楽しい部分や“新三部作(エピソード1〜3”のコルサントやポッドレースを思い出させるワクワク感があり、登場人物のキャラ設定にも、前作とは違って憧れを抱かせるものが多く、気に入っています。
レジスタンス側の無意味な行動の数々も悪くないと思っています。前作では後ろ楯の新共和国がファースト・オーダーの攻撃で滅ぼされながらも、スターキラー衛星を破壊したことで、レジスタンスたちは犠牲は大きくても、ファースト・オーダーにダメージを与えたのだから、すぐに反撃される危険を予測していたとしても、その勝利を喜びたいという気持ちがあったかもしれず、レジスタンスが『ジェダイの帰還』における帝国軍の中枢に居た皇帝を含む人物のような「勝利は目前」に近い気持ちで油断し、ポー(オスカー・アイザック)の自信過剰なところから見ても、そういうのがあったと言えるかもしれません。旧三部作のように、ルークやハン・ソロのような役立つ人材が不足し、本来なら、レイとフィン(ジョン・ボイエガ)が担うところでしょうが、二人とも本作開始の時点で、それが出来ない状況に置かれているので、以前とは違うために、失敗が続くのも当然だと思っています。『帝国の逆襲』ではAT-ATを幾つか破壊することしか出来なかった反乱軍とは違い、本作では失敗が多くても、戦艦を撃破したりしているので、勝利があるので、こういう展開もありでしょう。
私見ですが、本作はエイブラムスと共に製作総指揮に名を連ねたトム・カーノウスキーの色が強いと思っています。カーノウスキーはかつて『ダイ・ハード ラスト・デイ』にプロデューサーで参加し、シリーズでワースト扱いされた作品に不名誉な貢献をした一人ですが、彼は元々、アルバート・ピュン監督と組んで低予算のB級SFやアクションを世に放ち、製作費が無さすぎて、フィルムを使い回したり、世界観を複雑にしまくったかと思えば、カルト的な人気作の続編で思いっきり、予想外な方向へ舵を強引に切るというのも少なくなく、「こんなの誰が得をするんだ?」と思わせる事も多く、本作のローズ(ケリー・マリー・トラン)のキャラが、まさに、それであり、まるで『ネメシス』シリーズの『2』〜『4』を彷彿とさせ、話の展開の舵取りも、カーノウスキー色が強いと考えれば、全てが納得できます。当然、観る人を選ぶマニアックな路線の作品になりがちですが、『フォースの覚醒』で旧三部作のノスタルジー要素のネタを使い果たしたので、新たな方向へ斬新に持っていく為には、カーノウスキーのような人材が必要だったのではないかと思えてきます。それしか人材が居なかったのなら、このシリーズは斬新なモノを産み出せない点で危機的状況を迎えているのかもしれず、今後は、もしかしたら、ロジャー・コーマンやロイド・カウフマンの作品に携わった経験のある人物が舵を取る可能性もあるかもしれないので、『スター・ウォーズ』シリーズでマニアックな映画ファンしか知らない人物が、まさかの中枢に据えられるなんて事があったら、それはそれでワクワクしますが、カーノウスキーの参加は私としては正解だったと思っています。
前作よりも斬新な点が多かったので、個人的に満足しています。旧三部作を劇場で観ていない世代なので、ルークが年老いても本格的に活躍し、キャリー・フィッシャーの遺作にもなった作品を新年の始まりの日にTOHOシネマズの巨大スクリーンとドルビー・アトモスで初めて味わえたというのも含め、思い出深い一作で、これ以上は何も望めません。ただ、次回作の『エピソード9』がエイブラムス監督の演出と脚本に戻るので、そこには期待できません。彼と共同で脚本を執筆するクリス・テリオが評価は低くても、個人的には好きな『バットマンvsスーパーマン』のような面白い話を産み出せるかどうかに懸かっていて、それが正しく、“唯一の希望”と言えるかもしれないですが、最終章に相応しい一作になるのを願っています。