「傑作であり駄作、ルークはダメ人間。」スター・ウォーズ 最後のジェダイ ひろさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作であり駄作、ルークはダメ人間。
雑な群集劇だったというのが第一の印象です。
それぞれのキャラの活躍が相乗効果となって一人一人の魅力を引き出せるはずが、足を引っ張り合って個々人のバカさしか見えてきませんでした。
とにかく描写の粗と矛盾ばかりで説得力がありません。私には準主役達の行動原理が全く理解できませんでした。
あれほど逃げたがっていたフィンはなぜファーストオーダーと戦う決意をしたのですか?小型船でそのまま戻らずバイバイしても構わなかったじゃないですか、それに悪とはいえ元同胞を容赦無く殺す彼が全く理解できません。
ローズは安っぽい乙女キャラであることは仕方ない。しかし彼女が何故フィンにくっ付いて行動し、最後は特攻する彼を命がけで止めようとしたのか?そこに強いものを感じませんでした。整備士の役割はどこにいったのか?姉の死と救われた命の間の葛藤をもっと描いて欲しかったです。
ポーダメロンは戦士のプライドを捨てて逃げる勇気を持ったのことは分かりますが、その心変わりの大事なシーンがありません。「ルークが来た道を辿れば脱出路があるはず!」いやいやルークは幽霊なんでその道すら無いのです。そんなミスリードさせちゃいけませんよ。
彼らのなす事する事はほとんどは失敗なのにちゃんと失敗として描いていないのでヨーダ最高のお言葉「失敗は最高の師」が響いてきませんでした。過去作とは違いじっくり時間をかけて人間ドラマを描いているのに雑で矛盾ばかりが目立っていて非常に残念でした。
スターウォーズなのに魅力的な宇宙人が出てこないのも悲しいです。
ホルド提督って宇宙人なのかただのパープルヘアの人間のどっちなんですかね。チューイも存在感薄かったですしスノークとメガネおばさんがチラッと登場した以外に新しい宇宙人の記憶がありません。人種多様性を重視して宇宙人多様性を失ってしまうのは何かの皮肉でしょうか。その代わりに宇宙生物は面白かったです。チューイが食べようとした小鳥のような生物は目玉がクリっとしていて可愛かったですね、あんなの見たら絶対食欲失せます。ルークと住んでいた原住民や、ローズとフィンが乗っていたハイエナと馬を合体させたやつ、美しい毛並みを持った白ギツネみたいなやつ、面白い生物がたくさん登場していました。
最も許せなかったのはフォースの使い方です。
完全にCG表現のおもちゃにされていてやりたい放題でした。レイがフォースを明確に感じ取った場面は最悪で、言葉の羅列は陳腐でナショナルジオグラフィックのような映像はつまらない、石の上で軽く目を閉じたら悟れるなんて釈迦が知ったらキレるレベルです。小石の揺らし方1つとっても術者の内面を反映した繊細さが無く、今までフォースが持っていた神秘性や奥深さは無残に切り捨てられ、つまらない超能力と化したのは本当に残念です。
以上が酷評部分です。
劇場を後にした後は上のような内容でしばらく怒りが収まりませんでした。
しかし、反乱軍パートや細かいところをばっさり脳内デリートしてから映画を振り返ると、カイロレンとレイ、そしてルークパートでは彼らの葛藤・恐れが丁寧に描かれていて大満足できました。
中でもルークは最高です、今作の真の主人公はルークです!!
今作の彼には賛否が別れていますが、私は過去のルークを我慢弱く子供っぽくて大して強くもない出しゃばる青年くらいにしか思っていなかったため、落ちぶれた姿も素直に受け入れることができました。ヨーダは彼にジェダイの資質は無いと宣言していますし皇帝を倒したのはパパベーダー、デススターを爆破したのはハンソロ、ルークは大して戦火をあげていませんから。銀河を救った英雄でもジェダイでもなく、ルークを徹底的に意思の弱いダメ人間として見たら今作の彼に納得できました。大戦後もさほど成長できなかったのでしょう。カイロレン誕生の真相をレイに聞かれてごまかしたあたり、ベンに見出した暗黒面は弟子に舐められストレスとなって現れたルーク自身の闇といったところではないでしょうか?レイとの接し方を見ても元々弟子と良好な関係が築けなかったことが垣間見えますし、そもそも彼はヨーダの修行を放り投げたので正しい教え方も分かるはずないのです。カイロレン誕生はルークの完全なる自業自得で家族殺しとジェダイ失格の罪悪感で絶望に至り彼は引きこもってしまったといったところでしょう。そんな彼が孤独な修行を経て悟りに至ったかと言うとそんなこともない。彼の本音は「寂しいから誰か助けにきて!」です。ジェダイの聖地なんて彼を知る人なら思いつきそうな場所じゃないですか、それに現住人達と奇妙な共同生活しているあたり、彼は孤独では暮らせていないのです。そんな彼の本音と意思の弱さをやんわりと描いているように見えました。さらに言うとジェダイの書を燃やそうとしたのはレイに嫌われた八つ当たりですよね。「オレがこんなにも不幸なのは全てジェダイになったせいだ!」彼の責任回避と逃避行動があの情けない行動だと思うのです。癇癪を起こしてライトセイバーを振り回すレンと大差ありません。厨二病全開なのはカイロレンだけでなくルークも一緒です。
ただ、ジェダイの書すら燃やせないルークの意思の弱さと他人を傷つけられない優しさにこそ彼の素晴らしさが詰まっているとも感じました。どんなに感情のコントロールを失っても最後の最後で善の心を捨て切ることができない彼の本質が、ルークを暗黒面に堕とさず善の心を保ちつづけた理由ではないでしょうか?
人間としてのルークの弱さを徹底的に叩きのめして浮かび上がらせ、最後の最後で褒め称える、今作はファンを恐れずそれを描ききった大胆さに素晴らしいと思うところがありました。
こんな感じで酷評部分が-100点、絶賛部分が+100点、キレイに共存していたので2つを相殺して2.5を私の評価にしたいと思います。