「主人公が「殺し屋」というのは真っ赤なウソですww」ザ・コンサルタント 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
主人公が「殺し屋」というのは真っ赤なウソですww
1)映画紹介の誤りについて
この映画のポスターには「職業、会計コンサルタント。本業、腕利きの殺し屋。」とデカデカと書いてある。また、解説記事にも「ベン・アフレックが、凄腕の殺し屋の顔を持つ謎の会計士を演じたサスペンスアクション」とか、「天才的な頭脳を持つ会計コンサルタントであると同時に、圧倒的な殺人スキルを誇る殺し屋」とある。はっきり言って真っ赤なウソであるw
「殺し屋」とは「人を殺すことを生業とする者」を指し、少なくとも外部の誰かから指示や依頼を受けて殺す者をいうが、本作の主人公はそんなことをいっさいやらないからだ。
確かに彼も人を殺しまくる。しかし、それは自分を守ったり復讐するためであり、「殺し屋」とは全然違う。
2)主人公の横顔
簡単に言えば、「数字と殺人テクニックだけに常人では考えられない特殊能力を発揮する高機能自閉症かつサヴァン症候群の会計士」である。
彼は表の顔は会計士だが、実は裏社会の犯罪組織の会計コンサルタントも営んでおり、犯罪者の資金洗浄をしてやったり、組織内部での横領や隠匿を暴いだりしてぼろ儲けしている。
また、悪質な犯罪については政府に密告する義賊となったり、自分と同様の自閉症児を治療する施設に莫大な寄付を行う篤志家でもある。
軍人の父親は彼の病気を心配し、子供のころから自分の身を守るための高度な訓練を施した。その結果、主人公は極めて優れた殺人テクニックまで身に着けてしまい、例えば父親が殺された際には6人を病院送りにする。
さらに自分に裏会計士の知識を仕込んでくれた恩人が殺された時には、9人のマフィアを血祭りにあげ復讐を果たすのである。恐ろしい会計士もいたものだw
3)主人公と脱税企業の雇った殺し屋、財務省捜査官の三つ巴の戦い
映画は、彼が久しぶりに表の会計コンサルの仕事かと思って、ある会社の依頼を引き受けるところから始まる。ところが抜群に有能な会計士なので、ちょっと調べただけでこの会社の経営者が巨額の金融犯罪を行っていることを発見してしまう。
恐らく経営者としては、経理の女性職員が見つけた使途不明金を揉み消したい――くらいの軽い気持ちだったのだが、真っ黒だということが露見してしまったため、慌てて内情に通じたCFOと、不正情報を知る会計士、経理職員を消しにかかるのである。
まず、CFO宅には雇った殺し屋のボスたちが押しかけ、なかなかユニークな脅迫の仕方であっさり自殺に追い込む。
ところが主人公の場合は、例の特殊能力がいかんなく発揮され、彼と経理職員のところに来た殺し屋6人はあっけなく殺されてしまう。もちろん彼がそれで済ませるはずはなく、さらに黒幕たる経営者の復讐を図るのである。
この大騒ぎをよそに、金融犯罪の捜査を行う財務省捜査官は前述の9人殺しの犯人を追っていたが、ついに会計士が犯人だと突き止める。早速、自宅に踏み込むと、そこで発見したのは無数の監視カメラに、要塞にでも備えてありそうな巨大な連射銃。
捜査官が唖然としていると、そこに何故か、会計士は脱税企業の経営者宅にいるとの密告が入る…。
自分を暗殺しようとした経営者に復讐を果たそうとする会計士と、彼を待ち受ける殺し屋グループ、さらに会計士を追及する財務省捜査官、この三つ巴の戦いがいよいよ開始される。さて、その結果は――ま、映画をご覧くださいw
4)脱税会社等の内幕
主人公を襲わせた会社の不正内容がはっきりしないのだが、主人公たちの会話から察するに、この会社は当初、脱税資金を海外でマネーロンダリングして経営者の懐にしまうだけだった。
しかしこれでは小遣い稼ぎにしかならないため、ロンダリングしたカネを会社の帳簿に戻して株式価値を高め、遠からず上場して莫大な創業者利益を狙っていた。その間の経理上の不正操作を経理職員に見つけられてしまったようである。
また、ルノワールとかポロックとか絵画の話が頻出するのは、闇組織から報酬を受ける際に会計士が資金洗浄の手間を惜しんで名画で貰っているため。それを適宜売り捌いては、自閉症施設の寄付などに充てているのだろう。映画の初めの頃にあった「ポロックは売りたくない、値下げしてもルノワールから処分してくれ」というやり取りは、その意味かと思われる。
5)オマケ――感想
ベン・アフレックは「グッド・ウィル・ハンティング」の演技が大変魅力的だったが、本作ではキャラクターの面白さに引きずられ気味だろうか。それにしてもあれやこれや凝った仕掛けに満ちていて、いろんな観点から楽しめる作品だと思う。
小生としては弟の再登場より、会計士助手の正体がいちばん意外だったし、ちょっとホロリとさせられた。