「手際の悪い人物紹介と唐突なクライマックス」ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
手際の悪い人物紹介と唐突なクライマックス
ティム・バートンの作品の独特の世界観や映像のセンスは3D向きだろうし当人も3D映画製作には積極的であることは窺い知れるのだけれど、この作品に関して言うと思うほど3Dとの相性がよろしくない。いや、相性というよりも、特に立体的である必要性がないシーンが多く、2Dでも十分ティム・バートンらしい映像美学は伝わるだろうなぁと、やけに冷静になる自分がいた。「アリス・イン・ワンダーランド」のような作品ならば3Dであることにも十分な意味があったのだろうけれど(「アリス~」も2Dでしか見ていないので推測だが)、この映画に関しては、あえて3Dでなくてもいいような気がする。
内容に関しても、登場人物の多さと設定の特異性が少々煩わしく、非常に忙しい印象。主人公の為人から始まり、ミス・ペレグリンやヒロインのエマをはじめとするそれぞれの奇妙なこどもたちの紹介から、彼らの住む世界の設定、人物相関や時代背景など、そういった各設定の説明にひどく手間取っている感があり、時間をかけてそれらの説明に費やした後、すぐさまクライマックスに突入するというストーリー展開の慌ただしさがとても落ち着かない。
こどもたちの個性である「奇妙さ」が終盤の展開でそれぞれきちんと活かされていくのは良かったけれど、上映時間を延ばすか登場人物を減らすか何かの工夫をしないと、彼らが本当にただただ奇妙で、その奇妙さを武器に一瞬活躍してあっという間に終わる話になってしまう。それぞれの登場人物の奇妙さだけが個性で、それぞれの人物自体には何の印象も残らないというのはそれでいいのだろうか?その上、彼らの奇妙さだって、結局「奇妙」という印象のまま何も発展していないのに。
主人公のジェイク少年と敬愛する祖父との時空を超えた電話越しの再会なんて、切なくてとてもいいシーンだというのに、設定の紹介に手間取ってジェイクの心の内を描き込めていないから感動は薄らいでしまった。
ただ一番の問題は、タイトルロールにまでなっているミス・ペレグリンが最も無個性に見えてしまうことか。
ここの所、ハズレの多いティム・バートンだけれど、今回ももう一つ届かない感じがした。ティム・バートンの廃退的でグロテスクな世界観の美学って、近代的な映像技術ではなくて、どこか手作り感の残るチープさと相性がいいはずではなかったか?と「ビートルジュース」「シザーハンズ」「バットマン」などの過去の名作のことを思い浮かべて、そんなことをふと考えた。