「観賞後、マニアだけ読んでください。」ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
観賞後、マニアだけ読んでください。
ティム・バートンが昨年の「アリス・イン・ワンダーワンド / 時間の旅」(2016)の監督を降板した(プロデューサー名義)のは、こっちを作っていたから。おかげで(?)アリスは、第1作目(2010)の興収10億ドルから、2億ドルに落ちてしまった。バットマンで続編には懲りているのかも(笑)。
やはり、子供には怖すぎるくらいのダーク・ファンタジーが、本来のティム・バートンである。世界観やキャラクター設定に関してはファンにとってうれしい仕上がりだ。
しかしランサム・リグズの原作「ハヤブサが守る家(邦題)」が出版(2011)されたとき、すでに"ティム・バートン風"という書評があったくらいで、この映画のキャラクターは、ほとんど原作に具体がある。原作には、写真が貴重だった時代の、実在する50枚の古いモノクロ写真をもとに、妄想を膨らませて書いたという、変わり種だ。
なので、キャラクターはバートンによるアレンジこそあれ、オリジナルではない。まあ、アリスだってジョン・テニエルの原作挿絵が、その後のアニメ・実写化に決定的な影響を与えているわけだから、大した問題ではない。いずれにせよ、原作と監督の婚約はハッピーエンドを迎えたわけだ。
どうしても派手な装飾のほうに目がいく作品なので、中身はどうかというと、ひじょうに複合的プロットで、2時間に収めるには忙しすぎる濃厚な展開である。ホントは前後編に分けるべきだったかも。
"他人と違うことは迫害(イジメ)の対象になる"というテーマのもと、子供たちを守る場所を作る、ミス・ペレグリン(Peregrine=ハヤブサの意)は、いわば、X-menのチャールズ(プロフェッサーX)である。そのうえにタイムリープとタイムトリップゲートの概念が持ち込まれている。さらに「フランケンシュタイン」の実験モンスタームービーの要素も相まって、状況説明に要する尺が長い。
結果、敵キャラとの対決の必然性みたいなものが軽く感じられ、何のために逃げているのか、主題も薄まってしまう。変な話、"おじいちゃんはウソつきじゃなかった"という印象を残して、あっという間に終わる(笑)。
各キャラクターの特殊能力がすべてクライマックスの伏線になっているので、とうてい1度では消化不良。2度目からその出来映えのよさに感心させられる。噛めば噛むほどいろんなことが見えてくるので、映画館のあと、Blu-rayでリピートして楽しめる。ホームシアター向きだ。
ちなみにティム・バートンが遊園地のシーンでガイコツを受けとるカメオ出演していた!
さて、本作はもちろん3D映画である。そもそもディズニー出身者でもあるティム・バートン監督は、3D製作に積極的なハリウッド人のひとりだ。いち早く自身の「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」を3D化したのは2006年であり、これは「チキン・リトル」とともに、デジタル3D時代の幕開けだった。
その後もディズニーと「フランケンウィニー」の3Dリメイク、「不思議の国のアリス」も3D化が主たる目的作品だ。なので本作の真価は3Dで評価されるべき。ところが3D上映はすべて吹替版である。2D字幕で観るのは、もったいないかも。
タイトルロールから背景の古写真とテロップを重ねる。フロリダのスーパーマーケットで一番奥のオムツ売り場にいる主人公のジェイクまで、デブス効果を使ったカメラワークで始まる。
ホラー系の宿命として、暗闇のシーンが多いが、3Dは暗いシーンに弱い。左右のコマに明るさが半減するからである。そこでこの作品では、"ありえない光源"が多発している。おじいちゃんの家の裏で、初めてホローに出会うシーンで妙な光が差し込んでいる(ここでは懐中電灯しかない)。難破船に関するシーンもそうだ。海底まで太陽の光が届くわけない。
そんなことも気にならないほど情報が多すぎる映画なので、問題はない。
タイムループの前夜は雷雨で、翌日は晴天にすることで、時間軸を意識させるとともに、3D効果にも活用している。ドイツ機の爆弾とともに、雨粒が逆戻りする瞬間は、3Dの見どころである。2D-3D変換の作品ではあるが、絵コンテ段階から細かい配慮と計算がなされているわけだ。
3Dで観たい場合、東京では3D吹替版(バルト9/シネマメディアージュ/シネマサンシャイン池袋/TOHO錦糸町/AEON板橋)、4DX3D吹替版(UC豊洲/UCとしまえん/CS平和島)、MX4D3D吹替版(TOHOシネマズ西新井)だけである。
主人公ジェイク役は「ヒューゴの不思議な発明」のエイサ・バターフィールドというのも、3D作品の縁を感じる。あの子が大きくなったものだ。
ミス・ペレグリンを演じるのは、エバ・グリーン。「007 カジノ・ロワイヤル」(2006)のボンドガールであるが、ボンドを見つめたあの眼が印象的である。
最後に、原作には続編「Hollow City」、「Library of Souls」の2作がある。本作が特大ヒットではないので、映画化はしないだろうね。ティム・バートンは続編嫌いだし。
(2017/2/3・2/5 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/字幕:稲田嵯裕里/吹替版翻訳:久保喜昭)