「なにこれ全然ほのぼの系じゃない」孤独のススメ chibirockさんの映画レビュー(感想・評価)
なにこれ全然ほのぼの系じゃない
プロモーションのビジュアルからは想像だにできない
ドラマチックな展開に心グッと掴まれました。
おかげでレビューも熱が入り、長くなってしまいました。
なんせ主人公のおじさんフレッドも寡黙だし、そこんちに住み着く
おじさんテオは「ンー」とか「ヤー」とか「メエ~」しか
言わないので、前半は非常に穏やかに淡々とことが進みます。
全体的にセリフが少ないので、ちょっとした効果、演出で
状況、空気がわかります。
ピクトグラムのように余計な説明がなく、簡潔で好ましい。
1分たりとも食事の遅延を許さないようなフレッドは、自由すぎる
テオにしばしばそのリズムを乱されて不機嫌になりますが、
次第に、そんな謎だらけのテオに心を許し、のみならず、
惹かれていきます。
そしてようやく我々に笑顔をも見せるようになります。
しかし彼らを囲む非常~に敬虔なカトリック教徒の
隣人たちは、それをよく思いません。
説得に押しかけられたり、嫌がらせを受けたり。
勝手に、自由の国のイメージを持っていましたが、宗教的な部分で
特に田舎においては、閉塞的な場所もあるのですね。
テオがまさかの所帯持ちであり、奥さんはまさかの
先ほどフレッドが旅行の相談に訪れた、代理店の女性。
この奥さん、心からテオを愛しているようで、それでいて
自分の気持ちは全く後回し。
テオが自分の居場所を見つけたならそれでいいと、
フレッドとの同居に意義を唱えることは決してしません。
健常者だった頃のテオと奥さんの写真を見るかぎり、
仲の良い夫婦だったと思われます。
突然の事故で普通の生活が送れなくなり、半端ないショックも
受けただろうし、混乱した、悲痛な日々を重ねたことが容易に
想像できるのですが、この奥さんは、今のテオの全てを愛し、
想いやり、委ねています。
人間、悲劇をも全て受け入れると、ここまでの寛容さを
持てるものなのでしょうか?
カトリック教徒達が毎週ミサで拝む「神」よりも、
わたしには彼女の方が神々しい存在に見えてしまいました。
だんだんと物語の進み方に変化が起き、フレッド自身の息子に
会いに行くことになります。
恐らく熱心なカトリック教徒であったフレッドは、息子がゲイで
あることが許せず、追い出してしまったようです。
その息子の働くゲイバーに、意を決して赴き(一度失敗しましたが)
彼が自身の心をさらけ出して熱唱する姿、そして息子の存在、
生き方を認めます。
この渾身の熱唱と、最愛の妻にプロポーズしたマッターホルンへの
旅の風景が重なり、想像もしていなかった壮大なエンディングを
迎えます。
何かを捨てたり、得たいの知れない何かを信用してみたり、
当たり前だったことを変えることはとても難しい。
しかし逆に、ものの見方、気持ちの持ちよう、つまり自分次第で
どうとでも状況を変えることができる。
自分次第。
とても難しいけど、できるのだ。自分しかできないのだということ。
どんなタイプの逆境に対しても有効なソリューション。
それを、ガツンと見せてくれるのです。
このチラシや、公式サイトや、キャッチコピーのほのぼの感は
一体何だったのか?
わたしの場合はそれが功を奏し、意外すぎる流れにノックアウト
されてしまったので、結果は良いのですけども。
これは今年の個人的ランキングトップ5に入ります。確実。