劇場公開日 2016年4月9日

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孤独のススメ : 映画評論・批評

2016年3月29日更新

2016年4月9日より新宿シネマカリテほかにてロードショー

過去に囚われ孤独に暮らす男がたどり着く、開放感に充ち満ちたラスト

どこまでも平坦で、草原の縁を這うように木々が連なる、ここはオランダの田園地帯。亡くした妻と息子が寄り添い、微笑みかける写真に、毎日、目で「おはよう」を言いながら、初老の男、フレッドがひとりぼっちで暮らしを紡いでいる。しかし、そんな彼の孤独を絵に描いたような生活が、ある日、どこからともなく迷い込んできた言葉もろくに話さず、氏素性も分からない無精髭の男との同居生活によって、次第に色彩を帯びていく。

その後も度々アップになる妻子の写真、リビングに流れるボーイソプラノのアリア、男が寝泊まりするベッド脇にギターが立てかけられたままの寝室、物置から久々に取り出される埃を被ったサッカーボールetc。それらは、過去にフレッドがなくし、今以て埋め合わせることが出来ない幸福な日々を連想させる。そして、いつしかフレッドは、まるでまっさらなキャンバスのような同居人に息子や妻や友人を、次々と投影させていくのだ。

一つ屋根の下で暮らす男たちをゲイだとからかう近隣住民の偏見や、神の名の下、人は皆等しく受け容れられるべきと説きながら、あからさまに2人を毛嫌いし、除外しようとする教会の排他性が常套として描かれる。でもやがて、そんな差別や偏見を受けたことによって、逆に自らの過ちを認め、過去の呪縛から解放されるフレッドの"悟り"が、ラストにテーマとして鮮やかに浮上する。

幼い頃、美しい声でアリアを歌い、サッカーボールを蹴り合った息子は、なぜ、フレッドのもとを去ったのか? 突然帰らぬ人となった最愛の妻は、どんな思いを夫に託したのか? すべてが解き明かされる終幕の20分は、それまでのプロセスと、そこで歌われる名曲"This is my Life"の歌詞とが絶妙にリンクして、曇った視界が一気に開けるような開放感に充ち満ちている。曰く、「過去の感情はもういい。ありのままで生きさせて。それが、私の人生!」高く響くテノールに圧倒される時、誰の心にもままならない人生を肯定する寛大な気持ちが戻ってくるはずだ。

清藤秀人

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