「この映画の「カリノサ」を世界中に広めたいな。」ブランカとギター弾き とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の「カリノサ」を世界中に広めたいな。
とっても切なくなる、それでいて心に灯がともるような、温かくなる歌です。
夜空に耳を澄ませながら聞いていたいです。
子どもにも聴かせたいです。NHKのみんなの歌でも取り上げてほしいけれど、タガログ語だと子どもに歌詞が伝わらないですね。
ブランカ(演じているのはYoutubeの歌姫)の声がいい。ピーターが奏でるギターがいい。
そして、監督が作詞したという詩がいい(日本語字幕にも流れるし、この映画の公式サイトにもアップされている)。
この映画に貫かれているテーマ?がつまっているように思います。
「なんで大人は子どもを買えて、子どもは大人を買えないの?」
さまざまな社会問題の核心をついた一言。
親ガチャ。子どもは親を選べない。親・大人によって、子どもの生きざままで決まってしまうやるせない世の中。
そんな中で、少しでも幸せになろうとするブランカ。
紆余曲折あり、ブランカが他人に対してやったことが自分に跳ね返ってくるようなこともあり、”危険”の中に身をゆだねそうにもなり…。
その途中で知り合うピーター、セバスチャン、ラウル、他の人々。
ピーターの生き方、ラウルの生き方。
ブランカの、セバスチャンの望み、決断。
過酷な環境を嘆き流されるだけなのか、それとも…。
柔らかいベッド、お腹を空かせる心配をしないでよい環境、清潔な衣服。
自分にそっと寄り添ってくれる人。”仕事”としてではなく、”ペット”や”アクセサリーやトロフィー”のようにではなく、”私”を”私”として、他に取り換えられない存在としてみてくれる人。
「お金で買えないものもあるんだよ」
本当に…。
そして、その人と一緒に自分を信じて夢をみれば、そこはオアシスになる。
フィリピンをはじめとして世界各国には、ブランカやセバスチャン、ラウルのようなストリート・チルドレンはたくさんあふれています。
けれど、これは別の国の話? 日本にも、ブランカたちとは状況は違いますが路上にたむろする子どもはたくさんいて、「子ども食堂」を必要とするほど、ピーターのような存在が欠けている。
Unicefでの試写会で鑑賞。
上映後の、監督と難民の方々への取材を続けていらっしゃる方とのティーチインでは、映画の話や、監督やもう一方の方が訪れた国やら様々なお話がきけました。
仕事や生き方への感覚の違いなんかも語られていました。日本人が失ってしまったものと、失うくらい働いたから今の繁栄・(安心ではなく)安全があるのだろうなと、よく言われることですが、改めて思いました。
欲張りだから本当は全部欲しいけれど、ブランカのように、本当に自分にとって大切なものを得るために捨てなきゃいけないものがあるのだと思います。
監督がどうしてもピーターに言わせたかったという「盲人ばかりだったら戦争なんて起こらない(思い出し引用)」とともに、心に刻まれました。
そんな風に、細部や、この映画の背景・向こう側にまで目を凝らすと、いろいろと詰まった映画。
けれども、予告に使われている評のように”おとぎ話”のような、あったかくなる映画。
監督の、バックパッカーとして旅した国々や、長年フィリピンのスラムでスラムの人々と暮らした思いが詰まった映画。ピーター氏はあてがき。この人がいなければ映画にならないと、1か月以上探し回って出演してもらったとか。だからリアル。安易でドラマチックな解決策を描きません。それでもの、彼らにとっての”灯り”が描かれます。ラウルに対しても、愛おしむ視線にあふれています。その目線が温かい。
ブランカを演じたサイデルちゃんが魅力的。
最初、世をひがんでいる表情から徐々に変わっていく姿がまぶしい。大変失礼なことに最初は、彼女も、ジョマル君(セバスチャン役)やレイモンド君(ラウル役)のように路上でスカウトされたのかと思ってしまったくらい迫力がありました。
さらに、ピーター氏の存在感がすごい。公式サイトによるとピーター氏はモテたとありますが、この映画を見るとわかる気がします。
いつまでも彼のギターが聴きたかったです。ピーター氏に合掌。安らかに。
加えて、映像がきれいです。さすがは写真家。
オレンジ色を身にまとってください。
きっと、心に、ほどよい太陽が灯ります。