劇場公開日 2016年10月8日

「人道的に人を殺す任務 と 背負わされる罪の意識」ある戦争 マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0人道的に人を殺す任務 と 背負わされる罪の意識

2022年5月14日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

戦場の日常ってきっとこんな感じなんだ、とか、戦闘の中の切迫感ってこんな感じなのだろう、と私にはリアルに感じられました。戦場と日常の対比も説得力があり、クラウスの苦しみ、奥さんの辛さがひしひしと伝わりました。自分なら何ができたのだろう、どう判断するのだろう、罪の意識とどう折り合うのだろう、と思いは広がります。でもそれは、答えはない問いです。

2021年8月の完全撤退後の観賞だったこともあり、戦争を決めたかの国の元大統領はせめて罪の意識に苛まれているのだろうか、と思いは俯瞰に跳躍します。そして、例えばウクライナで民間人への攻撃ばかりが非人道的だと報道される裏で、ウクライナ兵、ロシア兵たちの失われた命や心の傷を思うと、心がつぶれるような気持ちになります。

ただ、気になったのは、タリバンの残虐な描かれ方。西洋世界からの、一面的な解釈であるように思えて、その点は残念でした。

〔翌日〕
翌2022年5月15日は沖縄復帰50周年。その報道に接していると、また、違う見方も生まれてきます。
アメリカ軍兵士は沖縄で罪を犯しても、基地に逃げアメリカに帰国。当たり前のように、罰を逃れてきた歴史を見ると、この映画に疑問がわいてきます。
デンマークは、ホントに、これほど積極的に戦争犯罪を裁いてきたのでしょうか。
この映画が製作されるまでに、開戦から14年間もアフガニスタン紛争を戦ってきたデンマーク。
うがった見方をすれば、この映画はプロパガンダです。
曰く「デンマークは国際法を遵守し、正義の戦いを続けていますよ。タリバンは自国民を残虐に殺害し、恐れられていますよ。アフガン国民はデンマーク軍に助けられ、活動を支持していますよ。デンマーク軍兵士は、判断ミスも犯し罪の意識に苛まれるけれど、最善を尽くしていますよ」と。
「西洋の民主主義は正義」「非西洋の政治・社会は劣っている」この上から目線が、いったいどれだけ多くの人を殺してきたことか。

たぶん、この監督はプロパガンダという意識なしに製作しているようにも、思われます。
でも、それって意識的なプロパガンダより、かなりたちが悪い。

自分が正義の側に立っている、という独善。
そうした自己認識の恐ろしさに、改めて気付かせてくれた映画。
そんな解釈の方が、正解に近いような・・・。

マツドン