「赤狩りに翻弄され苦難の創作活動を強いられた脚本家ダルトン・トランボの表現の自由への信念」トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
赤狩りに翻弄され苦難の創作活動を強いられた脚本家ダルトン・トランボの表現の自由への信念
赤狩りにより全盛期に別名義使用を余儀なくされたハリウッドの実力脚本家ダルトン・トランボの苦闘と復活の伝記映画。原案含め関わった作品には、「素晴らしき哉、人生!」「ローマの休日」「ガンヒルの決斗」「スパルタカス」「栄光への脱出」「いそしぎ」「パピヨン」などがあり、それらを観た時からは想像も及ばないハリウッド映画制作の裏側が赤裸々に描かれていて衝撃的であった。第二次世界大戦後の新たな緊張状態の冷戦の時代、共和党ジョセフ・マッカーシー上院議員の名からマッカーシズムとも言われる赤狩りは、共産党員やその思想を持つと思われる人たちを聴聞会に召還し議会侮辱罪を適用させ、禁固刑の実刑判決で弾圧した。言論の自由を制限してはならないとするアメリカ合衆国憲法を無視した下院非米活動委員会の強硬な姿勢と、その政治的プロパガンダの標的にされてしまったハリウッドの映画人の苦悩と悲劇には、時代も国も違う一映画ファンから見て、只々悲しいとしか言いようがない。第一回聴聞会の1947年から3年後、裁判費用の工面に疲れ果て上訴請求も棄却されて刑務所に収監されるシーンには怒りさえ覚える。
この作品を観る以前は、赤狩りに対する知識を積極的に得ることは無かった。赤狩りに協力した映画人では、エリア・カザンの名が挙がることが多くて知ってはいたが、今回名優エドワード・G・ロビンソンのトランボへの裏切りを知って正直驚くと共に、寝返りをせざるを得ない窮地に追い詰められたことにも心が痛い。この作品がトランボの立場で描かれているからではあるが、対して“アメリカの理想を守るための映画同盟”のメンバーで大スターのジョン・ウェインが悪役として描かれている。配役も軽く、この点は感心しない。映画として興味深かったのは、ヘレン・ミレンが演じた元女優のゴシップ・コラムニスト ヘッダ・ホッパーと言う女性の横柄で威圧的な態度でMGMの強者創始者ルイス・B・メイヤーやスター俳優カーク・ダグラスを脅迫するところ。言論の力で赤狩りを推進する影の立役者の存在感が強烈に描かれている。登場する監督では、オットー・プレミンジャーを演じたドイツ人俳優クリスチャン・ベルケルが出色。「帰らざる河」「栄光への脱出」「バニー・レイクは行方不明」しか観ていなが、経歴を読むとこのベルケルが演じたような傍若無人の堅物監督であったようだ。そんな監督が才能を認め「栄光への脱出」の脚本をトランボ作と公表する展開は気持ちがいい。出所後仕事を選べないトランボが低ギャラ覚悟で頼るB級映画専門の製作会社キング・ブラザーズの社長の描き方もいい。見に来てくれる観客を満足させる面白い映画を如何に創作するかに心血を注ぐ巨漢の熱血漢と、仲間の仕事を斡旋するために家族総動員で対応するトランボ家の人たち。後半の“アメリカの理想を守るための同盟”メンバーの脅迫に屈せず、暴力で対抗し追い払う場面のキング社長のキャラクター表現も面白い。反面、金の為に才能を浪費したくない脚本家仲間のアーレン・ハードの赤狩りに対する怒りを抑えきれず自滅していく悲劇も描かれている。
主演のブライアン・クランストンの堅実な演技は、この伝記映画の説得力を高めており、良妻賢母のクレオのダイアン・レインの美しさと落ち着きある演技は安心感を与える。すでに50歳の中年婦人になっても美しさは衰えず、良い役を得ていることは素直に嬉しい。娘二コラを演じたダコタの妹エル・ファニングも好演。カーク・ダグラス役のディーン・オゴーマンとエドワード・G・ロビンソン役のマイケル・スタールバーグは、どちらも似た雰囲気を醸し出していて良い。当時の映像も最小限に抑えてメリハリの利いた時代再現になっていると思う。1957年の最後のアカデミー原案賞のテレビ放送が流れてデボラ・カーが読み上げる候補作に、レオ・カッチャーの「愛情物語」とジャン=ポール・サルトルの「狂熱の孤独」、そしてチェーザレ・サヴァッティーニの「ウンベルトD」がある。「黒い牡牛」が未見なので断定はできないが、どれが受賞してもおかしくない作品が並んでいる。
赤狩りの裏事情を丁寧に再現して、ダルトン・トランボというハリウッド脚本家を知る上でとても分かり易い伝記映画に仕上がっています。これは、原作者ブルース・クックと脚本のジョン・マクナマラの功績が大きく、演出のジェイ・ローチと撮影のジム・デノールトの個性や技巧の高さを味わうまでの醍醐味は無かった。それでもテレビインタビューで、「黒い牡牛」の脚本家ロバート・リッチとトランボ自ら名乗り上げるシーンのクライマックス、ダグラスやプレミンジャーやホッパーが其々に反応するところは巧い。ハリウッド全盛期の1940年代から50年代に起こった共産主義への理不尽極まりない弾圧を振り返る意味と意義はありますが、実質は言論の自由と表現の自由の重要性を感じ取るべき映画でした。疑問が残るのは彼の畢生の映画「ジョニーは戦場へ行った」に全く触れなかったこと。エンドロールで語られた娘への感謝で、家族思いのトランボの印象で優しく終わっています。
コメントありがとうございます!勉強になります(本当の意味で!)。鎖国に関して、子ども、生徒のころは何にもおもっていませんでした。でも最近、日本に撮って鎖国は良かったんじゃないかと思ってたので、Gustavさんのコメントに私の頭と心が、そう思って下さる方がいるのか、と、何というか嬉しいというか、思いました。鎖国していたから外交に長けていた国と同等にはできない、未だにできない日本。でも鎖国していて馬鹿だった訳ではない。でも外の国からなんかいわれて初めて動く国でそれがいまだにそうなのかー。またなんだかわからないこと書いてますが、鎖国は必ずしも悪くなかった、はたまたま最近私もちょっと感じてました(って偉そうに。スミマセン!)
Gustavさん、コメントありがとうございます。言葉だけはよく聞いた「赤狩り」、でも実際はなにも知らないでいたので「トロンボ」を見ることができてほんとうによかったです。知っている俳優の名前も出てきて生々しくも思いました。アメリカでは、支持政党を明言する俳優や若い人達に影響大の歌手が居ますよね。私は若い人が政治に関心をもつきっかけとなっていいと思うんです。でも金持ちが札束にものを言わせてるのは、馬鹿じゃないか、お金を別の使い方にすることは考えないのか・・・と、想像の域を超えてます。見えないだけで日本でもそんなことが、大企業、経団連レベルで行われてるんでしょうか。選択制別姓などは経団連は推しているのになかなか進まないですね。話がドンドン逸れてすみません!「トランボ」を見ることできてよかったです
黒い牡牛とか普通に配信して貰いたいですね。
副題を付けた日本人の浅はかな所が、情けなくなります。まぁ、世代の違いもあろうかと思いますが、エリア・カザンのほうが嫌われているって知らないんですかね?アイロニーなのかなぁ?