さざなみのレビュー・感想・評価
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歳重ねても達観なんてそうはできない
今のキミは
いろんな経験を乗り越えたキミ
だからキミにどんな過去があったとしても
今のキミのことが大好きだから
ボクは気にしないよ…
などと若い時分のおいらは
さらっと口に出したりしたもんです。
でも長年を共に過ごした相手に
自分の知らない過去があり
しかもその過去が今も
心の天井裏を占めているとしたら…
信頼とはいとも脆いもの。
スライド写真を切り替える音は
ケイトとジェフの間に打ち込まれる楔の音。
おいらにはそのように響きました。
シャーロット・ランプリングの
気丈で静かな佇まいは
かえって内なる感情を想起させて
その様は時に痛々しくて
抱きしめてあげたくなること度々。
パーティーの行く末が
そしてケイトのその後の生活が
思い遣られてしかたありません。
おいらとしては
人生の同志として今後を過ごすことを
お勧めしたいのですが。
妻が夫に抱いた不信の念の原因
英国の田舎町に暮らすジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)のマーサー夫妻。
ふたりは45年連れ添っているが、ふたりの間に子供はない。
ジェフは近くの町の工場の管理部門で永年働き、ケイトは地元の教師を永年務めた。
週末の土曜日に結婚45周年のパーティを控えた月曜日、ジェフのもとにスイスから一通の手紙が届く。
ドイツ語で書かれた手紙の内容は、50年前にスイスの山をジェフと共に登山してクレバスに転落したまま行方不明となったジェフの恋人カチャの死体が氷河の中から発見されたというもの。
結婚する前にジェフに恋人がいたことはかすかに聞かされていたケイトであったが、ジェフの心は発見されたかつての恋人に奪われていく・・・というハナシ。
というか、そういう「永年連れ添った妻vs.死んでしまった若き日の元恋人」みたいなハナシだったら、まぁ普通のオジサンであるりゃんひさにもわかるところであるが、どうもそう簡単なハナシではないような感じ。
たしかに、はじめはジェフも突然現れた昔の恋人に心を奪われているのだけれど、それは一時の気の迷いだった、というように4日目あたりで気が付く。
中心になって描かれるのは、45年連れ添ったにもかかわらず、夫に不信の念を募らせていくケイトの変化。
当然はじめは、昔の恋人に心を奪われてしまう夫に対して、この45年間はなんだったのか、という戸惑いだったろうが、夫が隠れて観ていた当時の恋人の写真をみてからケイトの不信の念は決定的となり、夫との関係は修復不可能なものへと変貌してしまう。
実をいうと、観ているとき、観終わってからも、ケイトがジェフに対する不信を決定づけた理由がよく判らなかった。
ということで、一緒に観た妻に助け舟を出してもらうことにしたところ・・・
ケイトが観たカチャの写真(スライド)では、妊娠しているようにみえた、とのこと。
なるほど!
そうすると、腑に落ちる。
45年間連れ添ったが子を生さなかった夫婦。
妻の側にしてみれば、かなりの後ろめたさのようなものを感じていたのだろう。
映画前半では、子どもに関する話題がさりげなく散りばめられている。
冒頭、朝の犬の散歩の帰り路にケイトが元教え子と出逢い、教え子に子どもが生まれたことが会話される。
翌日、ケイトの友人が娘を連れて土曜日のパーティについて話をするが、その際、友人から彼女が撮った孫の写真をみせられる。
また別の日、会社のOB会に参加したジェフから、バリバリの組合員だった同僚が銀行家になった息子とゴルフに興じているという話を聞かされて嫌になってしまった、と語られる。
そうなのね、上手く伏線は張られているけれど、すぐにはわかならなかったです。
元の恋人との間に子を生したという重要な事実を、夫からは一言も聴かされていない。
そして、そのことを隠したまま、つい先ごろ元の恋人に心を奪われてしまったことなどなかったことにして、これまでどおりの仲のいい夫婦に戻ろうとする夫。
そういうことに、自分もふたたび仮面を被って、いい夫婦のフリをすることに嫌気がさしてしまう・・・
そういうラストというわけか。
ふーむ、繊細な演出といえば繊細なのだけれど、勿体をつけすぎてわからなくしてしまったところも多いように感じました。
特に、ケイトがカチャの写真(スライド)を観るシーンは重要なので、シャーロット・ランプリングの演技を見せるだけでなく、もう少し事実を判り易く撮る必要があったのではありますまいか。
ということで、自分の理解力不足を反省しつつも、この評価としておきます。
<追記>
そういえば、フレッド・ジンネマン監督の『氷壁の女』でも、大昔の恋人の死体が氷漬けで発見された云々というエピソードがありました。
あちらでは、そういうことが多いのかしらん。
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