劇場公開日 2016年4月9日

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「女優の表情が物語る」さざなみ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

3.0女優の表情が物語る

2016年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

 長年連れ添った相手が若き日の美しい記憶を持ち続けていた。そんな程度の秘密はどこの夫婦にも当てはまる。ただ、お互いにそのことには触れないようにしているという、世界中の夫婦が持っている知恵を、映画に登場するこの夫婦も持ち合わせている。
 しかし、アルプスの氷河の下から遺体が発見されたという、一通の知らせにより、それを秘めておくことが出来なくなってしまう。
 良き妻、温かき人、社交的な常識人を演じるシャーロット・ランプリングの表情が、そんな表情の合間に嫉妬で凍りついていく。
 スライド写真で、夫の昔の恋人の腹部が膨らんでいるのを見たときの表情、説明的な台詞を吐かせることなく、この妻の心境の変化を語り尽している。
 そして、ラストのシーンでは、彼女は夫と繋いだ手を決然と降ろす。残された夫婦の時間を、これまでとは全く異なる心境で過ごすことになることへの覚悟を決めた女の表情に圧倒される。
 邦題の「さざなみ」どころか、45年間堆積したものを一気に流し去る津波である。

佐分 利信